見出し画像

【短編小説】ポイ捨て禁止

お、何だ?アンタ。
もう消灯時間はとっくに過ぎてるはずだぞ。

くくっ、なーるほど。周りの目をかいくぐってここまで抜け出してきたか。
悪い奴だねぇ。

しっかし、そうか。ここは俺だけの特別な場所だったんだが、これで俺『だけ』の秘密じゃあなくなったな。
今夜からはアンタも共犯だ。

んじゃ、共犯記念に乾杯といこうかね。
あぁ、大丈夫だ。こいつは院内の売店で扱ってる、ただのオレンジジュースだからよ。

ほい、乾杯。

んで?
ここにいるのと消灯時間ってワードに首傾げなかった辺り、アンタここに入院してんだろ。

何故、こんなところに押し込められる羽目になったんだ?

ふぅん…自ら終わろうとしたが失敗して、ここにきたと。

ラッキーだったな。
あ?失敗したことを後悔してんのか?

入院したところで、追い詰めた奴らも学校の奴らも見舞いにも謝罪にもこない?
退院したらしたでいじめがひどくなるだけ…?

馬鹿なのか?

当然のようにいじめたり、平然と弱者の声を無視したり隠蔽したりするような人間が、一人二人犠牲になっただけで変わる訳ねーだろ。

ただ…。

っと…もうこんな時間か。
じゃあ、俺はこの辺で失礼するよ。

何だよ。慰めて欲しかったのか?
生憎あいにくと俺は口下手でね。そこまでの語彙も持ち合わせてねーよ。

あー…そんな顔すんなよ。

……。
ただな、さっき言ったようにアンタはラッキーだよ。
だってそうだろ?

アンタは結果的に命を捨てられなかった。すなわち、まだいくらでもやり直しが効くってことじゃねーの?

逃げたっていいんだよ。アンタの人生なんだから、良くも悪くも最後はアンタがその命の全責任を負う。誰かに何か言われても耳を塞いで目を背ける権利はあるんだ。

じゃあな。これで本当にさいならだ。
そろそろかえんねーと…こっそり抜けてきたから、バレたら上の奴らに何言われるか分かったもんじゃねーのよ。

アンタはまだこっちにくるべき人間じゃない。
その命、もうポイ捨てしようとすんなよな。

いいなと思ったら応援しよう!