【短編小説】性分
僕は、飽き性である。
いや名前ではなくて自覚している性分です。
というか、この文を書いているのも何だか飽きたなぁ。何も浮かばないし、このまま終わらせちゃおうかな。
先生の実態を知りたいという読者が沢山いるんです。
少し前、確か前作の原稿をいつも通り、締め切り前に何とか手渡した時に僕の担当くんはそう言った。
実態、といってもなぁ。隠したい訳ではなく、自分から自らのことを話すのが苦手なだけだよ。
頭を掻きつつそう返すと、担当くんは前のめりになって、こんなことを言ってのけた。
エッセイ、書きましょう。
大丈夫です、先生の知名度と人気と文才があれば売れます。ありのまま、先生のことをある程度好きに書いてください。
そんな風に押し切られて、今に至る訳だ。
しかし、ありのままと言われてもなぁ。
僕が得意としている書き物は、いわゆるフィクションだ。勿論要所要所で現実味を出す為にフィールドワークや取材をすることだってあるけれど、それはそれ。しかも今回は僕自身のことときている。
第三者に取材をし、それを活かすのは苦手ではない。むしろ新しいことを識り、その知識を読者というまた違った第三者に広めるのは、僕にとっては喜ばしいことであったしそこで彼らとの繋がりを感じることが出来た。
だが、今着手しているのはエッセイ。僕の生活や自らのことを書かねばならない。
ノンフィクションものは苦手なんだよなぁ…。
それにきっと、誰も信じてはくれないだろう。そこが一番の懸念なのだ。
だがまぁ、せっかく話を持ってきてくれた担当くんの顔に泥を塗るようなことは避けねば。僕は渋々ノートパソコンに向き直り、画面に文字を打ち込み始めた。
『僕は普段小説家として活動させていただいているのですが、本業は違います。実家は代々続く由緒ある家柄らしく、僕自身も家の仕事…神々や魑魅魍魎の話を聞くという役割を担ったことがあり、ひっそりと世の和平を保っています』
そこまで書いて、僕は削除のボタンを連打した。
やっぱり僕には書けそうもないなぁ。絶対いつものフィクション小説だと思われる…。
自分のことを伝えるのが、こんなに難しいとは。僕は椅子に座ったまま、天を仰いだ。
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