子どもの医療チームに犬がいる話 -ファシリティドッグ-
正確には、「次女が入院している病院には、医療チームの一員としてファシリティドッグという犬がいる」。
次女が入院して以降、小児の重い病気に対しては様々な制度やケア、サービスなどがあることを知ったので、そういった情報も発信していきたい。
今回は、ファシリティドッグの話。
ファシリティドッグについて
次女が入院してから1週間が経ったころ、次女の病室にやたら落ち着いていて理知的なラブラドール・レトリバーが現れた。それがファシリティドッグ。
ファシリティドッグの事業は、動物介在療法(アニマルセラピー)とよばれている。
確かにこのファシリティドッグは、頻繁に小児がん病棟(次女は厳密には小児がんではないが、その検査や治療法が小児がんとほぼ同等であるため、この病棟に入院している)に現れては、次女を含めたこの病棟に入院する子どもたちに対して、治療・手術のときに一緒に処置室まで付き添ったり、処置室内で麻酔が効くまで側にいてくれたり、ベッドで添い寝してくれたり、その他様々なサポートをしてくれている。そして子どもが落ち着き、やるべきことが終わったら、颯爽と去ってまた別の子どもの病室へと向かう。
はっきり言って、かなり仕事ができるやつである。
医療の「現場」に関わる犬
ファシリティドッグは、ただ入院病棟をうろうろして患者に癒しを与えるだけではない。病院で活動するための専門的な育成を受けている。
国内のファシリティドッグ事業を担っている特定非営利活動法人シャイン・オン・キッズのホームページによると、ファシリティドッグ(およびそのペアとなるハンドラー)の活動内容は以下と記載されている。
そう、がっつり医療行為や入院生活に関わる。これがファシリティドッグの大きな特徴のひとつ。
だからこそファシリティドッグには、子どもたち・家族・そして医療関係者との信頼関係が何よりも求められる。そのため、ファシリティドッグは1頭あたり1病院の専属担当となり、その病院に「常勤」している。これもまた、ファシリティドッグの大きな特徴。
病院で“働く”犬
病院に常勤し、現場の医療行為や入院生活に深く関わる。この特異な業務を行うために、ファシリティドッグがパスしなければならないハードルは非常に高い。
そりゃそうである。感染症やケガなどに対するリスクが極めて高いこの病棟で、添い寝や処置室への帯同などをするのだから、いろんな意味での信頼感・安心感は欠かせない。
アイドル犬でありながらエリート犬
ファシリティドッグは、アシスタンス・ドッグス・インターナショナル(ADI)という国際的な組織が定めた国際基準と倫理規定をクリアした犬のみが認定され、ペアとなるハンドラーも「臨床経験のある看護師」。
なぜ看護師がハンドラーを担うのかというと、 ファシリティドッグの活動が患者にとってより本質的なものとするため。
具体的な利点としては、以下の通り。
日本では、2008年にプロジェクトが始まり、2010年に静岡県立こども病院でベイリーという犬が勤務しはじめてから本格的に始動。現在、4つの病院で活動していて、上述した特定非営利活動法人シャイン・オン・キッズという組織が、その役割を担っている。
シャイン・オン・キッズは「入院中の子どもたちを笑顔に」というミッションのもと、特に小児がんや重い病気と闘う子どもたちとその家族をサポートすることを事業の中心に据えており、現在のファシリティドッグたちの職場も、小児がんセンターを抱えるような小児総合医療施設が中心。
当然、1回認定されればいいわけではなく、ファシリティドッグとハンドラーのトレーニング、定期的な獣医師の検査と診察、ドッグトレーナーによるフォローアップなど、日々の研鑽は欠かせない。人件費を含めると、年間約1,000万円の費用が必要とされている。
小児がん病棟では、子どもや親からアイドル犬のようにかわいがられているが(もちろんその役割もある)、実はとんでもなく優秀なエリート犬でもある。だからこそ、国内にもまだ数頭しかいない。
実際、次女の病棟に常勤しているファシリティドッグの仕事ぶりからは、上述した通り、プロフェッショナルを感じる。子どもの叫び声や予想外の行動にも動じる素振りを見せず、子どもや親の要求のことごとくに応え、しかも普段は元気に走りまわる犬なうえに寝顔は間抜け、という愛嬌まで備わっている。
子どもが治療を前向きに受け止める空気づくりをしてくれる
自分はこれまで犬を飼ったことがないし、ペット含めて動物と暮らすということ自体に興味を持ったことすらなく、なんなら入院時にファシリティドッグの説明を受けたときも、正直その意味性がよく分からなかった。
が、ファシリティドッグの仕事ぶりを見ていると、確かにこの存在は必要だと思える。
次女が入院している病院の小児がん病棟は、意外と明るい雰囲気で悲壮な印象はそこまで感じられない。が、現実としてそこで話される内容や行われている治療は軽くない。
「造血幹細胞手術をした」「ドナーを待っている」「○○を手術した」という話は往々にして聞くし、面会者同士で話すときにも、病名を聞くことはお互いはばかっている。病棟内にはいわゆる無菌室があるが、そこの利用率も高い。大変な治療を受けている子どもも少なくない。というか、次女を含むここにいるすべての子どもが、何かしらリスクの低くない治療を受けている(だからこその小児がん病棟である)。
そうした治療の際に、文字通り何も言わずに寄り添ってくれる医療関係者以外の存在はメンタル面で非常に大きい。そして医者にとっても、子どもが計画通りの治療を受け入れてくれることで、自らの仕事を遂行することができるのだから、その空気をつくってくれるファシリティドッグの存在は重要だ。なるほど確かに、ファシリティドッグは「医療チームの一員」として、その医療行為に大きく貢献している。
セラピードックとファシリティドッグの違い
最後に、医療と犬の関係で有名なセラピードッグとの違いについて。
ファシリティドッグはこのセラピードッグと混同されることもあるが、この両者は「その存在で患者に寄り添う」という大きな使命は共通しているものの、活動内容は大きく異なる。
「犬を救う」という目的も強いセラピードック
一般財団法人 国際セラピードッグ協会によると、セラピードッグの活動場所は、
その活動内容は、
様々な理由で心身にダメージを受けた人をセラピードッグが訪問する、ということだが、このプロジェクトは同時に「捨て犬をセラピードッグに育成して、殺処分ゼロを目指す」という目的もある。というか、公式ホームページを見る限りでは、どちらかというとそっちがメインの感がある。
医療行為のサポート役、つまり患者への貢献がメインであるファシリティドッグ事業とは、根本のミッションが異なる。
もちろん、どちらも社会貢献性が極めて高い素晴らしい事業だということは強調しておきたい。