アジアの定義
「一帯一路」構想、AIIBによって対アジア外交戦略を明確化し、中国企業のアジア進出やプレゼンス強化している中国に対して、日本政府はアジア各国に「質の高いインフラ投資」を円借款とパッケージで提示し巻き返しを図っている。しかしながら、そもそも、アジアの定義自体が日本と中国で異なっているという、根本的な構造問題を抱えていることを御存じだろうか?
以下は、国連によるアジアの定義(地域区分)である。中国政府も、国連の地域区分に沿ってアジアを定義しているが、アジアには、ロシアと中東、中央アジアまでが入っている。
一方で、日本の外務省にはアジア局という組織があるが、その管轄にロシアと中東(アフガニスタン以西)が含まれていないように、「アジア」の範囲が狭い。
このことは、中国が、東南アジア、南アジアに限らず、中央アジア、西アジア、中東、ロシアを含めたアジアを対象として「一帯一路」(欧州とアジアを結ぶ新シルクロード)構想を打ち出しているのに対して、日本の外務省は、同地域をカバーするための組織が、アジア局、中東局、欧州局(ロシア)に分断され、国連の定義するアジアに関して一元的な対応がとれないことを意味している。
日本と中国で、地理的に国土の位置する場所の違いから、地政学的な関心軸が異なるのは当然ではある。とはいえ、国連が提示する同じフレームワークで、中国と対抗できるアジア戦略を描くことが困難な状況に日本はあるということを、まずは認識する必要があるだろう。
従前より、人類の普遍的な価値を追求するための「ユニバーサルな価値」を外交において重視してきた日本ではある。しかし、その中で「アジア」政策の内容を見ると、「2つの海(太平洋とインド洋)における自由」という普遍的価値と、「法とルールの重視」から成り、これは見方によっては、「米国追従、中国牽制」とも映る内容になっている。
また、「アジア」地域におけるネットワーク戦略の展開として「ASEAN経済回廊整備支援」と、福田ドクトリンに基づく「文化のつながり」による協調を謳い、「次世代交流の促進」を日本は掲げて来た。
これに対し、中国のアジア政策は「自国の国益追及」を目的とすることを明確に謳っている。
胡錦濤国家主席は、2006年8月、「中国の外交は、発展利益だけでなく、国家主権、安全の擁護に貢献すべきである」として対外政策の強化を指示している。(習近平国家主席も2013年1月、胡錦濤国家主席の方針を再確認)
国益に沿うよう、あらゆる基金やフォーラムに「中国」の名前を付けることを義務付けていることが援助の特徴として挙げられる。
どちらが一国の外交の姿として正しいかは、よく考える必要があろう。日本の外交は「お花畑」で生ぬるいと批判することは容易だが、日本も中国も、どちらも本質的には「国益」を追求していることには変わりない。文化的な背景から表現方法が異なるだけと解釈することも出来るだろうし、援助する側の国益追及を明確に謳った対外援助が、相手国側からみて本当の意味での「援助」として受け入れられる訳がないではないか、という疑問を呈することも出来るだろう。