ハートの実
マミは学校帰りに、生垣にからまった、かれたつるに茶色の袋があるのを見つけた。
仲良しのエリが袋をやぶいた。
「わあ白黒のタネが入ってる。植えてみよう」
エリは保育園から一緒で、三年担任のヒロミ先生は、仲良しさんとよんでいる。マミの家のうら庭はお母さんの野菜畑。二人ですみっこに植えて水をあげた。もうひからびたタネで、そのまま忘れていた。
しばらくして、マミがうら庭に出てみると、ポツンと緑の小さな芽が出ている。マミはあわてて近所のエリの家に走って行った。
「わあ、ホントに芽が出たんだね、かわいい」 エリも大喜びで、それから二人で毎日のように水くれをして、伸びるのを楽しみにしていた。
細かい緑の葉っぱはぐんぐん伸びて、一週間たつと十センチになり、風にフワフワゆれている。二人でお母さんに野菜用の細いぼうをもらって支えにした。
夏の日ざしの中でつるはどんどん伸びて緑の葉っぱがしげり、細かい白い花が咲いた。「見て見て、かわいい袋がついたよ」
エリのいうとおり、ゆさゆさとはっぱがしげってうす緑の袋がいくつもついていた。
「これは風船かずらね。二人で植えたのね」 お母さんがにこにこして見ていた。
夏休みは近づいたころ、いつも明るいエリなのに、つかれやすく元気がなかった。
エリが学校を休んだ日にヒロミ先生が、
「エリちゃんは体の具合が悪くて、入院したんですって。早くよくなってほしいわね」
と話してくれた。
マミは心配で、家に帰ってすぐエリの家に行ってみたがるすだった。
みんなは夏休みの話で楽しそうだが、一人っ子のマミは、毎日学校から帰ると遊んでいたエリがいなくて、さびしかった。
夏休みになると、毎朝うら庭の風船かずらに水をあげて、うす緑の袋を見るのが楽しみだった。
(エリちゃんと水をあげたっけ…)
思い出していると、お母さんがいった。
「エリちゃんは腎臓病だけど、近いうちに退院できるとお母さんに聞いたわ、よかったね」
マミはエリと遊べるのが、うれしかった。
夏休みさいごの日、お母さんにたのまれて近所のおばあちゃんの家に野菜を届けた。おばあちゃんの家は、ちゃんと道を歩いて行くと遠回りになるので、エリの家の庭をとおって近道して行った。
おばあちゃんはよろこんでくれた。
帰りにまたエリの家の庭を通って帰ってきた。
すると縁側にかみの毛がクチャクチャで、顔がはれあがった女の人が、
パジャマすがたでかみの毛をとかしていた。
(うわー、おばけみたい、だれだろう)
マミは顔をそむけて気づかないふりをして、庭のはじをそっととおりすぎた。そのとき、
「マミちゃん」
しわがれ声でおばけがよんだのだ。
(きゃー、助けて)
マミはこわくなって一気に走り出して家ににげ帰った。
むねのドキドキがいつまでたってもおさまらなかった。
(でも、あのパジャマはみたことがある。もしかするとあれはエリちゃんだったかも。病気であんな顔になっちゃったんだ…)
そう思うとなんで返事をしなかったんだろうとくやむ気持ちが、ムクムクと大きくなった。
エリはきっと悲しかったはず。
ごめんね。
マミはずっとこうかいしていた。
緑のかたまりのようになった風船かずらが風にザワザワゆれて、イジワル、イジワルと聞こえた。
夕飯は食べずにお母さんに心配をかけた。
次の日から学校が始まり、ヒロミ先生が、
「エリちゃんはやっと退院できたので、もうじき学校に来れるそうよ。
みんなではげましのお手紙を書きましょうね」
といった。
マミはほっとしながら、にげ帰ったことを思うと気持ちが暗くしずんだ。
家に帰って風船かずらを見ると、
アヤマレ、アヤマレと風にゆれているように思えた。
なにげなく袋をやぶくと、かわいい緑のハートの実が三つ入っている。
マミは思った。
このハートが「ごめんね」の気持ちをエリにきっと伝えてくれる!
お気に入りのクッキーの空き缶にハートの実を一杯につめた。
ドキドキしてエリの家に行くと、エリは縁側にすわっていた。
顔はまだむくんでいたけど、カミの毛はたばねて、いつものエリだった。
ハートの実の缶をわたした。
「 エリちゃんきのうはごめんね、これ見て」
「 わあ、かわいいハートだ、ありがと」
エリの笑顔にマミは、むねの中の重いものがスウッととけてくのを感じた。
「早く元気になって、一緒に遊ぼうね」
「うん、ありがと。二人でハートを育てたんだもん、元気になるよ」
手をふって別れたあと、
まっすぐ風船かずらのしげっているうら庭に行った。
うす緑のすずなりの袋たちが、
風にゆれて、ヨカッタネ、ヨカッタネとささやいた。