「女性半額」は「男性差別」か

焼肉店の牛角が「女性に限って通常価格の半額」というキャンペーンを行った。

これを「男性差別」だとして、炎上していたらしい。牛角の「女性半額キャンペーン」を踏まえて「差別」とは何かについて解説する。

----------

まず「男性差別」という表現について。

「差別」とは「差でける」つまり「何らかの『差』を理由として『異なった対応をする』」ということである。だから「差別する」とは2つ以上の「属性の差」があるものが対象でなければならない。「女性半額」については「男女という性による差」があるから成り立つ特別サービスである。もし世の中に「女性」しかいなければ「女性半額」というのは論理的に意味をなさない。

「女性半額」は「男女という性差」を理由としているから、「男女の差で別ける」つまり「男女差別」と表現しなければならない。あるいは「性差で別ける」つまり「性差別」である。だから「男性差別」という表現は、そもそも日本語として間違っている。

「いや、『男性差別』は『男性のみ異なる扱いを受けている』という意味で用いているのだ」と主張するむきもあるかも知れない。が、仮にそうだとしても「女性半額キャンペーン」については、通常料金があって、男性は通常と変わらない料金で、ある特定の期間だけ女性だけが通常と異なり代金が変更となるのだから、「男性通常、女性のみ異なる扱い」であり「女性差別」と表現しなければならないことになる。

だから「男性差別」という表現はそもそも日本語として誤りで、「差別」という言葉を使って表現したいなら「男女差別」「性差別」となる。また「女性」という言葉を入れず「男性」という言葉だけで表現したいなら「男性蔑視」「男性不利益」という表現になるだろう。ただ、「女性半額キャンペーン」で「男性は通常の倍額」などとされているのなら「男性不利益」であるが、男性は通常料金のままなら特別男性が損をしている訳ではないから「男性不利益」と言うのはおかしい。通常料金をもって「不利益だ」と言うのは、ただの僻みである。もちろん「男性蔑視」とも言えまい。

では「女性半額キャンペーン」は「男女差別」「性差別」なのか、と問われると、それは明確に「男女差別」「性差別」であると言える。なぜなら、お店は「性」という属性を理由に同じ商品に対して異なる金額を設定しているからだ。「女性半額キャンペーン」は明確に「男女差別」「性差別」である。

⭐︎ここまでのまとめ
「女性半額キャンペーン」は「男女差別」あるいは「性差別」である。「男性差別」は日本語としておかしな表現である。


----------

「女性半額キャンペーン」は明確に「男女差別」であるが、次に、これは良いことなのか悪いことなのかを考える。

善悪の判定には、少なくとも「法的に」と「道徳的に」という2つの基準でそれぞれに考えないといけない。

まず「法」の基準から。
憲法第14条では、次のように規定されている。
-すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

分かりやすく論理的に整理すると

「人種、信条、性別、社会的身分、門地」

のいずれかを理由として

「政治的、経済的、社会的関係」

のいずれかにおいて差別してはいけない

という意味である。具体的に言うと例えば

・「あなたは黒人だから(人種)、この車両に乗るのは禁止(社会的)」

・「あなたは××教の信者だから(信条)、国会議員にはなれない(政治的)」
など。

(「大人◯◯円、小人××円」は「年齢」による「経済的」差別であるが、「年齢」は違憲の条件に当てはまらないので、年齢によって金額差を儲けるのは憲法違反ではない。同様に「外国人はパスポートを常時携帯しなければならない」というのも「国籍」は違憲の条件に当てはまらないから、憲法違反ではない)

「女性半額キャンペーン」は
・「あなたは女性だから(性別)、代金は半額(経済的)」
なので、憲法第14条の禁止条件に該当する。

しかし、「女性半額キャンペーン」は、このお店が私的なお店である限り、憲法違反ではない。

なぜか。

なぜなら、『憲法は国民の国家に対しての命令』であるからである。憲法は、国民がその下で働く議員、大臣、官僚、その他公務員(地方公共団体含む)などに対してその行動を規定、制限している命令である。だから、個人や民間企業は、憲法の命令の下にないのである。

お店は、そもそも憲法から命令されていないので、憲法違反をすることは不可能なのだ。それは、A高校に在籍していないあなたがA高校の校則違反をすることが不可能なのと同じである。

もし国や地方公共団体(都道府県、市区町村)が経営しているお店で「女性半額キャンペーン」をやったら、これは明らかに重大な「憲法違反」である。国や地方公共団体は憲法の命令を受けているので、従わなければ違憲となる。

さらに「女性半額キャンペーン」が「違法」であるかどうかも考えてみると、まずはそもそも男女で商品代金を違えること違法とする条文はない(※)し、仮にあったとしても、「法律」も「憲法」同様、『国民の、国家に対しての命令』だから、命令されていない民間経営の飲食店が「違法行為」をすることは不可能である。

(※民法における「公序良俗違反」というのはあるが、それは「差別」に限定したものではないし明確な基準線がないので、ここでは触れない)

余談ながら、「憲法は国民が国家に対して行なっている命令」で「法律は国家が国民に対して行なっている命令」だなどと理解している人が(結構多く)いるようだが、それは大きな間違いである。デモクラシー下における憲法も法律も、全て「国民の、国家に対する命令」であって、それは国家権力という恐ろしい「リヴァイアサン」あるいは「ビビモス」を縛る鎖である。だから「国民 →命令→ 国家(権力者)」であらなければならない。

国民は国家の主人(主権者)であり、国会議員もその他公務員も全てその使用人であるから、主人が使用人から命令されるなど、ある訳がないのである。

そんなことを教えた人がいるはずがないのに、「憲法は国民が国家に対して行なっている命令」、「法律は国家が国民に対して行なっている命令」などと考えている人が多くいるのは、何となくその方が相互で対等のように思えるから、脳が心地よく、勝手にそう思い込んだのだろう。

⭐︎ここまでのまとめ
ある民間経営の飲食店が「女性半額キャンペーン」を行なった場合、それは「男女差別」であるが「違憲」「違法」ではない。


応用問題
Q、鉄道等における「女性専用車両」は合憲か違憲か?

A、違憲である
理由。まず、現在国営の鉄道はない(かつての国鉄、日本国有鉄道は国営だった)が地方公共団体経営の鉄道は有り(例:京都市営地下鉄)、先に示したように地方公共団体は憲法の命令を受け必ず憲法に従わないといけないから、もし京都市営地下鉄が「女性専用車両」を設けたらそれは「憲法違反」である。

では、民間経営の鉄道、いわゆる私鉄が「女性専用車両」を設けた場合、これは民営だから先の飲食店の「女性半額キャンペーン」と同じで、「男女差別」ではあるが「違憲」ではない、と判断するのは間違い。

鉄道は、国土交通大臣の許可を得なければ営業することができない(鉄道事業法第三条)から、国の監督下にあり、私鉄であっても国や地方公共団体経営に準ずると考えなければいけない。鉄道やその他公共交通機関、電気・ガス・水道、NHK、医師や弁護士、などについては、国や地方公共団体の許可、免許などを受けなければ営業できないので、準国営、準公営、準公務員であり、憲法の命令に従う必要がある。

だから民間鉄道における「女性専用車両」も、明確に「憲法違反」である。

ではなぜ、違憲にも拘らず「女性専用車両」が存在するか。それは「女性専用車両」と銘打っていながら、実は「女性専用車両」ではないからである。

「女性専用車両」を設定している鉄道会社に聞いてみれば良い。「女性専用車両は、女性しか乗車することができないのですか?男性は乗車できないのですか?」と。そうすればその鉄道会社はこのように答えるだろう。「女性専用車両は男性のご協力によって成り立っているもので、男性が乗車してはいけないという訳ではありません。しかしご乗車頂かないようご協力をお願いしていますムニャムニャ」。「男性乗車禁止」と言ってしまえば、その瞬間に憲法違反となるから、鉄道会社としては口が裂けても「男性乗車禁止」とは言えない。しかしだからといって「男性も乗車可」だと言ってしまえば「女性専用車両」の意味をなさなくなるから、最後は「…ムニャムニャ」と誤魔化すしかないのである。

「女性の安全を守るために女性専用車両があっても良い」という意見は、意見として良いと思うし、私もそれは同意する。しかし憲法違反かどうかという一点で考えると、「女性専用車両」は明確に「憲法違反」である。

憲法14条の条文に「性別」と並列して「人種」とあるから、「女性専用車両」の「女性」を「白人」と読み替えて「白人専用車両」とすれば、いかなる理由があるとしてもそれが重大な違憲であることは明白である。

⭐︎ここまでのまとめ
公共交通機関における「女性専用車両」は、「男女差別」でありかつ「憲法違反」である。

だから「女性専用車両」を設定している鉄道事業者は、「女性専用車両」をあくまでも「任意」「男性の協力による」とし、強制力はないとする。


----------

「女性半額キャンペーン」に戻る。

民間経営のお店による「女性半額キャンペーン」は「男女差別」ではあるが「違憲」「違法」ではないと結論がでた。では、道徳違反についてはどうだろうか。

道徳というのは時代や地域によって異なるものである。だから「女性半額キャンペーン」が一概に道徳違反であるかないかを判定するのは不可能だろう。それぞれ個人が判定すれば良いだけのことで、それに優劣も正誤もない。

⭐︎まとめ
飲食店における「女性半額キャンペーン」は差別かどうか。

民間経営の場合:「男女差別」ではあるが「合憲」「合法」(正確には「憲法や法律の判断を受けない」)であり、道徳違反かどうかは、個人の判断による。

国営、公営の場合
「男女差別」であり、「違憲」であり、国民の命令に背いているのだから、道徳違反とも言って良いだろう。

また、いずれの場合にも「男性差別」という言葉は、意味をなさない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?