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「Chime」訳が分からないけど怖い、とにかく怖い

部屋の静寂は、録音機材の低い唸りと、時折聞こえる遠くのサイレンの音に支配されていた。外はまだ夏の蒸し暑さが残り、空気は重苦しい。この街の夏はいつもそんな感じだ。俺はマイクの前に座り、深呼吸を一つしてから話し始めた。

「まず、こんな配信を聴いてくれてありがとう」俺は感謝の言葉を口にした。リスナーに対する俺の感謝は本物だ。彼らがいるからこそ、俺はこの配信に全力を注いでいる。底辺ポッドキャスターに過ぎない俺だが、少しでも彼らの心に響く何かを伝えたいと思っている。

ただ、もし俺の言葉に「何を言ってるんだ」と感じる人がいるなら、それで構わない。聴かなくてもいい。ただ、俺は聞いてくれる"あなた"にこだわる。もし最後まで聴いてくれる人がいるなら、その人の心に少しでも届けばいいと思う。明日を頑張ろうという気持ちや、暗い気分を吹き飛ばす手助けになればと願っている。

先日、俺はフェスに行ってきた。熱気と興奮に包まれたあの場所で、特に印象に残ったのがSUPER BEAVERの渋谷さんだった。彼のステージは観客をただ煽るだけではなく、もっと深いところに訴えかける力があった。彼の言葉とパフォーマンスが、あの場にいた全員を一体化させる瞬間を俺は見た。鳥肌が立った。淡々と演奏するミュージシャンも確かにクールだが、SUPER BEAVERのライブパフォーマンスはそれを超えて、まるで神々しい何かを見ているようだった。

この経験を踏まえて、今回は少し趣向を変えてみた。あのフェスでの感動を再現しようと、俺なりの煽りを試みたが、どうやら俺にはまだそのレベルには達していないようだ。ただのポッドキャスター、しかも底辺の俺が、あの感動的な瞬間を再現しようとしたところで、寒々しい結果になるのは仕方ないことだ。

次に話題を変え、リスナーからのリクエストに答える時間だ。今回のリクエストは、20代のリスナーからで、「chime」について語って欲しいというものだった。限定公開でしか観られないというこの作品、俺も早速足を運んで観てきた。感想を述べる前に、一言リスナーに感謝したい。「いつも聴いています。楽しいお話を聞いていると友達のような明るい気分になります」と書いてくれたその言葉が、どれだけ俺の心を温めたか、言葉では伝えきれないほどだ。

映画「chime」は45分という短編だが、黒沢清監督の手による作品であり、その独特な世界観が詰め込まれている。料理教室が舞台で、登場する包丁の存在感が不気味だ。俺自身、家で包丁を使うたびに、黒沢作品の恐怖を思い出す。あの包丁が、どこかで何かを引き起こすのではないかという不安が常に頭をよぎる。

この作品は、はっきりとした結末を求める人には少し難解かもしれない。だが、精神的に不安定な人間の視点で観ると、また違った面白さがある。chimeの音が聞こえるという設定自体が、不穏で不気味だ。それが何を意味するのか、観終わった後も考えさせられる。

黒沢監督の演出は、観る者に恐怖をじわじわと感じさせる。例えば、家の中で奥さんが空き缶を捨てるシーンや、息子が突然笑い出すシーン。これらはすべて、日常の些細な出来事を不安感で満たす要素だ。そして、偶然の産物であろう電車の音さえも、恐怖の一部として効果的に取り込まれている。

この映画を観ていると、見えている現実と見えていない現実が交錯するような感覚に陥る。精神が錯乱した人の視点から見ると、この作品の恐怖が一層深まる。観終わった後も、心のどこかに引っかかるものが残り、何かを考えさせる。まさに、黒沢清の手腕が光る一作だと言える。

「あなたにもchimeの音が聞こえますように」とリスナーは書いてくれたが、その音が聞こえるということが、果たして本当に良いことなのか。そんな疑問が頭をよぎる。chimeの音が何を意味するのか、どう受け取るかは観る者次第だが、少なくとも俺にはその音が不安を掻き立てるものに思えた。

映画を観た後、俺は新たな映画の宣伝方法を思いついた。ポッドキャスターたちに映画を観てもらい、感想を語ってもらうことで、広くその作品を宣伝していく手法だ。ポッドキャストは今や数多く存在し、その中には映画に特化したものも多い。そこに映画を広める力があるなら、それは非常に有効な手段となるだろう。

最近、海外の映画で「スージー・サーチ」といった作品が日本で公開されているが、その宣伝方法もポッドキャスターを利用したものだった。ポッドキャストをやっている人々に試写会を提供し、その感想をTwitterや他のSNSで広めてもらう。この方法は、映画のプロモーションとして非常に効果的だと感じた。

俺がそんな試写会に招待されることはないだろうが、それでもこの手法は素晴らしいと感じる。映画配給会社が、ポッドキャスターに映画を見てもらい、それを広めてもらう。この手法が今後ますます一般的になるのではないかと予想する。

さて、話を戻そう。明日、俺はまた旅に出る。2泊3日の過酷な旅が待っている。精神的にも厳しい旅だが、仕事だから仕方ない。少し憂鬱だが、帰ってきたらまた次の配信で会おう。もしかしたら、その旅の間にchimeの音が聞こえるかもしれないが、それはまた別の話だ。今回の配信はここで終わりにしよう。次回もどうぞよろしく。

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