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つなぐ

 

とととと・・・っと不意に走り出す背中に、思わず見とれてしまう。
ちいさなちいさな靴。
ついこの間、初めての歩みを喜んだばかり。年をとるはずだよ。
和歌山の穏やかな陽射しが、ちいさな影とおおきな影をつなぐ。

子どもの手をとる君を見て、僕は時を超えて旅をする。

 

 

誰もいない廊下の長椅子で迎えた夜明け、妻の弱くなる息遣いと励ましの声だけが聞こえてくる。祈り続けた十八時間を経て、僕はようやく君に出会えたんだ。

走り出す君の幼い背中を、こんなふうに僕は見ただろうか。
仕事に明け暮れた三十代、夜更けに帰って君の寝顔を眺めるのが至福だった。

もしも時を戻せるならば・・・
こんなささやかな喜びを、妻と分かち合いたかったのに。

 

 

ジェットコースターの轟音にしがみつくちいさな身体を、前向きに抱え上げる。
鮮やかな芝生の上、ころころと毬はずむように睦ぶ白黒が愛らしい。

 

 

すっかり母の顔になった君は、近頃ますます妻に似てきた。

 




ここまで読んでくれたんですね! ありがとう!