なぜ、３人とも忘れてたんだろう？

ある日、突然 思い出した。
なんで、今まで忘れていたんだろう。
今、オトナになって考えたら、とても変なことだ。
忘れるはずのないような、不思議な光景。

でも、さらに不思議なのは、３人で見たその当たり前ではない光景を20年以上も忘れていたのが、私だけではなかったことだ。

確かに あの日、私たちは変なモノを見た

あれは、小学４年生の時だった。
真っ黒に日焼けした夏が過ぎ、涼しい風が頬を撫でる夕方のことだ。
パートから帰ってきた母が、ベランダから私と妹に声をかけた。
「洗濯物を取り込むから、手伝って」

その頃、私たち家族は、川べりに立つ4階建ての社宅の 最上階に住んでいた。
ラッキーなことに学校は社宅のはす向かいで、体操服を忘れても、10分の休み時間にこっそり取りに帰ることができるほどの距離だった。
だから、我が家のベランダからは、小学校がとてもよく見えたのだ。

それは、まばゆい光を放つ円盤状の物体だった

狭いベランダに３人で並び、バケツリレーのように洗濯物を取り込んでいたとき、体育館の屋根の上に、普段は見かけない変なモノが乗っていることに気づいた。
それは、まばゆい光を放つ円盤状の物体で、球場のナイター照明のようなライトに取り巻かれていた。
３段に積み重なったパヴェリングのような、ぱぁっと輝く大きな物体。
絵本やテレビで見る形とは違っていたが、その頃に私たちが知っている言葉で言えば、それは“UFO”以外の何物でもなかった。

でも、不思議には思わなかった

｢ねぇ、あれ見て！ UFOみたいなのがいるよ｣
｢ホントだー！｣
｢キラキラ光ってて、キレイだね！｣

今 思うと、何もかもが不思議なのだけれど、その時の３人の会話は、そんな感じだった。
まだ幼稚園児だった妹は仕方がないとして、医療従事者でリケジョの母も、そんなふわっとした感じだったのだ。
おぼろげにしか思い出せないけど、大騒ぎした記憶はない。

そして、私たちは、その不思議な光景を忘れた

次にそのことを思い出したのは、それから20年以上も経って、私自身も母親となってからのことだ。
とても親しい、でもオトナになってから仲良くなった友達と話している最中のことだったと思う。
なぜ、唐突にそんなことを思い出したのかはわからない。私はＳＦ小説にもＳＦ映画にも興味はないし、不思議体験を扱うテレビ番組も好んでは見ない。思い出した瞬間に、何かそういうものと関係のある何かを見ていたわけではないと断言できる。
記憶のトリガーになったものが何なのかがわからないというのは、ちょっと気持ちわるいものがある。

その記憶を確かめるため、尋ねてみた

思い出してしまったら、どこかスッキリしない。
だって、私は、その話を誰かに話した記憶がないのだ。あんなに不思議な体験だったのに。もちろん、その夜、普通に帰ってきたはずの父にもだ。
当時も今も私は活発で、そんな“おもしろい出来事”を黙っていられるわけがない。色々あったけど、とても にぎやかで会話の絶えない家族だったから、そんなことがあれば、夜は大騒ぎになるに違いないのに。
･･･ということは、みんなそれをすぐに忘れてしまったんだろうか？
それとも、自然に受け入れて、当たり前の とるに足らないことのように、話題にすることもなく 忘れてしまったんだろうか？

でも、そんな不思議なことって、ある？

思い出してからほどなく、実家で家族が集まったときに、私は母と妹に聞いてみた。
｢変なこと、聞くけどさ･･･記憶にある？｣
思い出したことを話してみると、これまた不思議な反応が返ってきた。

｢そういえば、そんなことあったね！｣

そんな反応、ある？
動物園でゴリラに水かけられたよね！とか、転校先の教頭先生に男子と見間違えられて 面白かったよね！とか、そんな思い出話じゃないんだよ？
私たち、３人でUFO見て、しかも それを全員で今まで忘れてたんだよ？

話せば話すほど、３人とも見た記憶はあるけど、今まで忘れていて、誰にもそれを話したことがないことがわかった。父に尋ねても、誰からもその話を聞いていないとのことだった。
そもそも、非科学的なことは一切 その存在を認めない両親なのだ。母が「そんなことあったね」程度の反応であることも、父が「そんなバカなことあるか！」と言わないところも、いつもと違って調子が狂う。

それから、また数年が経った。 もう今では、誰も忘れてはいない。
でも、やっぱり不思議なのだ。

なぜ、３人とも忘れてたんだろう？

【初投稿のあとがき】
これは、紛れもなく実際にあったことなのだけれど･･･。
はじめてのnote投稿が、この記事でいいのかしら？とも思いました。
自己紹介記事を書こうと思いながら、何を書くか思いあぐねて、｢お題｣に浮気してみたら、見た瞬間に｢あぁ！このお題、書ける！｣って。
まぁ、自己紹介なんて 後からでもできるし、何なら書いたものが積み重なっていけば立派な自己紹介だし･･･と思うことにして、投稿します！

＝＝2021.3.20.追記＝＝＝＝＝＝＝＝＝

この記事は、#春風怪談 に参加しています。