「国語」と「日本語」 ~国語文法と日本語文法④~
国語文法では通常、教える順序は大から小へと向かう形となる。文を文節に分け、文節を単語に分け、それを名詞や動詞などの品詞にグループ分けし、さらにそれを自立語(名詞・動詞・形容詞・形容動詞・副詞・連体詞・接続詞・感動詞)と付属語(助動詞・助詞)に分け、自立語の中で活用のあるもの(用言)について、その活用パターンを学び・・・、そうした長い道のりを経て、最後にやっと助動詞・助詞に辿り着くといった具合である。これは既に日本語を使っている学習者が自らの母語を分析する場合には有効な過程だが、これから日本語を学ぼうとする学習者に同じ方式で教えたところで、いつまでたっても日本語を使えるようにならないだろう。
そこで日本語文法では、先述したように、よく使う助詞や助動詞は最初から活用の中に含めて教えてしまう。たとえば接続助詞の「て」である。「て」は順接・逆接・並列・単純接続と広く使える便利な接続助詞だが、いざその用法を分析しようとすると、用途が幅広いゆえに厄介である。順接の中にも継起・原因・理由・手段・方法などの多様な用法があるし、「て」に接続する際に起こる音便などの現象もあって、全てを細かく説明していると時間がかかって仕方がない。そこで国語文法では、「て」につながる動詞や形容詞の連用形については早い段階で教えるものの、「て」そのものについては後回し、場合によっては授業時間の都合でカット、などという事態が起こるわけだ。国語教育では日本語母語者が対象なので、それでも大きな問題はないのである。
日本語教育では、そうはいかない。日常生活において、「て」の使用頻度は非常に高い。「て」が使えるようになると、順接・逆接・並列を含めた複文が作れるようになり、表現の幅が一気に広がる。そこで日本語教育では、動詞や形容詞の活用に最初から「て」を含めた「テ形」を組み込み、音便も含めてパッケージにして、初級段階で教えてしまうのだ。使用頻度の高い表現を早い段階で教え、実際のコミュニケーションの場で学習者がそれを使ってみる機会を増やすことで、言語習得は加速化する。そういう点でも、日本語文法は機能重視に徹していると言えよう。
助動詞「た」の扱いも同様である。「て」の場合と同じく、国語文法では「た」の説明は文法学習の終盤にあたり、時間不足でしばしばカットされるような事項だが、日本語文法では活用の中に「タ形」が組み込まれており、早い段階でパッケージにして教えてしまう。「た」が使えるようになれば、時制(テンス)と局面(アスペクト)の双方にまたがる幅広い表現が可能になるからだ。ここで少し、「タ形」を切り口にして、日本語におけるテンスとアスペクトの問題を考えてみよう。