オリエント・中東史㊱ ~第一次中東戦争~
1948年5月、イスラエルの建国宣言に対して、それを承認しないアラブ連盟諸国(エジプト・シリア・レバノン・ヨルダン・イラク)が一斉に侵攻し、第一次中東戦争(パレスチナ戦争)が始まった。第二次大戦後の国際秩序を担うべく創設されたばかりの国際連合が調停を試みたものの、調停官がエルサレムでユダヤ人武装集団に暗殺されるなど和平への過程は困難を極めた。翌年までの間に二度の停戦を経ながらも戦闘は続き、アラブ諸国側の分裂もあって、結果的にイスラエルの全面勝利となった。1949年の休戦協定で定められた境界線(グリーンライン)に基づき、イスラエルは当初の国連分割案よりも広い地域を領土に収めた。一方、国連分割案ではパレスチナ人地区とされていたヨルダン川西岸はヨルダン、ガザ地区はエジプトが獲得し、パレスチナ人独自の国家は実現しなかった。結局、アラブ連盟諸国も、自らの領土欲のために開戦したことを露呈したのである。
この戦争によって、多くのパレスチナ難民が生まれた。戦争前のパレスチナにおけるアラブ系住民の人口は約130万人、ユダヤ人は約66万人であり、ユダヤ人はパレスチナの土地の5%強を所有するにすぎなかったが、戦争を経てイスラエルが領土を拡張した結果、半数以上ものアラブ系住民が居住地を追われ、1949年には70万~90万人の難民が国境を越えて周辺諸国へ流出した。イスラエル国内に残った人々も厳しい生活を強いられることとなった。かつてヨーロッパで迫害を受けたユダヤ人が、パレスチナではアラブ系住民を迫害する側へと転じたのだ。
手塚治虫氏の名作漫画「アドルフに告ぐ」では、第二次大戦中のドイツと日本を舞台に、少年時代には親友だったドイツ人のアドルフ・カウフマンとユダヤ人のアドルフ・カミルが、ナチスのユダヤ人排斥政策の影響下で葛藤しながら反目しあってゆく過程が描かれる。ヒトラー・ユーゲントに入隊したカウフマンはカミルの父の処刑に手を染め、戦後はパレスチナに渡ってアラブ人のゲリラ勢力に参加する。家族をナチスに殺されたカミルは戦後のイスラエルの独立を守るために軍人となる。かつての親友だった二人がパレスチナの地で殺し合うことになるラストシーンは、かつては共存していたはずの人々が、時代の波に翻弄されながら、憎しみの連鎖に絡め取られていく悲劇を象徴しているようだ。それは今もなお、パレスチナで現実に繰り広げられている惨劇なのである。