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連載日本史182 文明開化(1)

幕末から明治初期にかけて都市部を中心に欧米の生活文化や思想が急激に流入した。いわゆる文明開化である。牛鍋・自転車・西洋料理・人力車・ガス灯などの物質面での開化に始まり、太陽暦・日曜休日制・散髪などの生活習慣の欧米化も進んだ。1868年(慶応4年)には福沢諭吉が慶應義塾を開学。明治に入って学制が公布されると、新島襄の同志社英学校や、北海道大学の前身となった札幌農学校など、欧米の教育思想に基づく個性的な教育機関が次々と生まれた。

札幌農学校(Wikipediaより)

1872年には新橋・横浜間に最初の鉄道が敷設され蒸気機関車が走った。同じ年には前島密らの尽力によって郵便制度が全国に広がった。銀座や横浜には欧風のレンガ建築が立ち並び、蒸気船の建造も本格的に始まった。断髪令・廃刀令が出され、服飾も急速に欧米化した。廃刀令には旧士族の武装解除という目的もあったが、欧米諸国から野蛮な国と見られないようにという配慮も働いていたことだろう。軍隊の制服も欧米を範として整えられた。何にせよ、まずは形から、ということである。攘夷に沸いた幕末からわずか数年で、この変わり身の早さ。時に節操の無さとも見える順応性の高さが、日本社会の身上であると言えるかも知れない。

開業当時の横浜を走る鉄道(Wikipediaより)

五榜の掲示で掲げられたキリスト教禁制の高札は、欧米諸国からの抗議もあり、1873年に撤廃された。英語学習熱の高まりもあって、キリスト教各派によるミッションスクールも多数設立された。1874年には立教大学の前身となる聖公会立教学校が開学している。1875年には東京に女子師範学校が設立され、女子教育への道も開かれた。

ヘボン式ローマ字表(item.rakuten.co.jpより)

日本におけるミッションスクールの先駆けとなった英語塾を幕末に開学し、後に外交の舞台で活躍する高橋是清や林菫(ただす)らを教えたアメリカ人のヘボンは、1867年に日本初の和英辞書「和英語林集成」を完成させた。そこで用いられた日本語のローマ字表記はヘボン式ローマ字と呼ばれ、現在のパスポート表記の基準となっている。余談だがヘボンの綴りはHepburn、往年の名女優であるオードリー・ヘップバーンと同じである。文字を見ればヘップバーンの方が正しいように見えるが、日本語の拍数ではヘップバーンが6拍になるのに対し、英語のHepburnは2音節である。さらにpとbは同じ仲間の子音の無声・有声の連続になるのでpの音が消えるため、ヘボンの方が実際の発音に近い。ヘボンとヘップバーンの違いには時代の違いのみならず、耳から入る英語か、目から入る英語か、という違いも反映されているように思われるのだ。

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