キアゲハの風葬
ふと、次の一歩を半歩にとどめた。
足先を見てハッとした。
あやうく、というところだった。
季節外れとも思えるキアゲハが、路上に身を横たえて、斃れていた。
目にした瞬間、死を見て取った。
しかし、同時に、あまりに鮮やかな、黒、黄、白、朱の紋様。
眼の奥も、胸の奥も、射られた。
果ててなお、生きたままに美しい翅。
無傷のまま丁寧に畳まれ、日の光に映えていた。
もう舞うことはない。
花にとまることもない。
しかし、亡骸を一瞥したにすぎないのに、キアゲハの、その本分を生きたさまをも、見届けたように思った。
「一瞬のなかに永遠をみる」という言葉が、ふと過ぎった。
いたわしく思い、路傍の土の上にまでは運んだが、そのまま野ざらしにして立ち去った。
キアゲハを、その気高さのまま葬れるのは、わたしではない。
未来から吹く風が、送るだろう。
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