以太

てのひらのなか
すこしの重みも感じなかった
そのことがむしろ怖かった
上下する胸をじっと見つめた
それは はじめは荒く
次第に静かになっていった
いのちが透けて見えると思った
目やにと吐瀉物にまみれていても
闇夜に同化しそうなほどの漆黒の毛並みは
何にも代えがたく美しかった
焦点の合わない眼は さいごまで澄んでいた
仔猫の名は 死後 つけた
以太
戒名ではない
いとおしく呼ぶためだった

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