福岡の弁護士 水野遼
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フィショ氏妻提訴会見の感想 目に余る質疑の数々
Mme. Fichot, the Estranged Japanese Spouse Accused of Child Abduction, Speaks Up という会見が、令和4年12月14日に行われたのをご存じだろうか。以下の動画を参照してほしい。 この件を簡単に解説すると、ヴィンセント・フィショ氏というフランス人男性とその妻(本稿では「マダム・フィショ」という)との離婚事件に関して、フィショ氏が、「妻に子どもを連れ去られた」と主張して、オリンピック期間にハンガーストライキを敢行したり、本国フランスを巻き込んでロビー活動を行い、マダム・フィショに逮捕状を請求させたりしたというものである。それに、主として離婚後共同親権を推進する国会議員や一部弁護士、活動家等が賛同し、フィショ氏の言い分のみに依拠して一面的なキャンペーンを行ったことが問題視された。 本件は、フィショ氏の言い分のみに依拠して一方的にマダム・フィショを悪者扱いするような記事を掲載し、あるいはSNS等に投稿するなどした出版社や団体に対して、マダム・フィショが原告となって損害賠償を請求する訴訟を提起したというものである。 代理人は、ヘイトスピーチ対策等に関してTwitterで有名な神原元弁護士と、DV問題についての第一人者である岡村晴美弁護士である。 さて、提訴会見は、日本外国特派員協会において行われたものであるところ、その質疑があまりにもひどかった。ただ、質問は2件が英語で行われており、動画内では日本語の解説がなく、マダム・フィショも英語で回答していたため、一般の視聴者にはわかりにくかったかもしれない。 そこで、私は、YouTubeの字幕機能の助けも借りながら、2名の英語による質問を翻訳し、いかにとんでもない質問をしているのかを明らかにしたいと思う。正直なところ、会見を妨害するために質問をしているのではないかと疑われても仕方がないような、悪意に満ちた質問であったように思う。そのこととの関連で、最後にテレビ朝日の記者の質問にも軽く言及したい。 1人目の質問者 筆者が聞き取ったところによると、だいたい以下のようなことを言っている。 You said you were threatened by your husband and he still threatening you so I would like to know how does those threats consist of? And second point, a key point of Mr. Fichot argumentation is that he said you didn’t want him to see the children ever again so now your lawyer said insisted that there is a mediation possibility for visitation mediation possibility in Japan so are you now open to this visitation and I also like to ask to your lawyers how are those visitation taking place if they are granted if because if it’s just in an office for a few hours per month you could understand that it may not be satisfactory for the other parents これを日本語に訳すと、以下のようになる。 あなたは、フィショ氏から脅迫された、今も脅迫されていると言うが、彼がどのようにあなたを脅迫しているというのか、脅迫とは具体的に何なのか、明らかにされたい。 第二点として、フィショ氏の主張の骨子は、彼曰く、あなたがフィショ氏と子どもを未来永劫会わせたくないと考えているという点にある。だがあなたの弁護士は、日本では面会交流調停をするという方法があり、調停を利用すれば会うことができると主張した。そうだとすると、あなたは現在、フィショ氏の面会交流に応じていると言えるのか。そして、弁護士に問いたいのは、当事者が同意するときに、面会交流は実際どのように行われているというのか。弁護士事務所で月1回数時間面会するだけ等というのは、別居親にとって到底満足のいくものではないと言うことを、どうせあなたは分からないのでしょうけれども。 控えめに言っても、ひどい質問である。まず、フィショ氏の行動でマダム・フィショが苦痛を受けたことは、両名の離婚訴訟の判決の中でも具体的に判示されているところであり、判決文や訴訟記録を読めばわかることである。 こちらの記事を参照してほしい。 そのようなことをわざわざ今回の会見で質問して、フィショ氏がマダム・フィショに危害を加えたかどうかについての争点を蒸し返すというのは、会見の質疑を有益に使おうとする者の姿勢とは到底思えない。 第二点についても問題だらけである。マダム・フィショは、フィショ氏と子どもを未来永劫会わせない(didn’t want him to see the children ever again)など述べたことはない。前提誤認である。また、次の部分は、岡村弁護士が、冒頭において日本の法制度では、面会交流の調停という手続を行うことによって、子どもと会うことができる制度的な保障があるのに、フィショ氏は面会交流の調停を申し立てていないことを指摘したのに対して、あなたはフィショ氏の面会に応じているのか(now open to this visitation)などと、およそ論点の噛み合わない質問を行っている。これは、フィショ氏が、「自分は家庭裁判所に許可を求めて会うような立場にあるわけではない」という趣旨のことを言って調停に消極的なことと軌を一にする。 極めつけは、弁護士事務所で月1回数時間会ったところで別居親は満足しないなどと、本件とはおよそ無関係な持論を展開して終わっている。そこでの表現も、you could understandと、嫌味を込めたものを感じる。水野の理解では、これは仮定法過去であり、代理人弁護士に対して、「あなたはどうせそんなことは理解できないのでしょう」と皮肉を込めて述べたものだと解釈した。 そもそもまともに回答する価値があるのか疑問であり、マダム・フィショが、「この会見は自分とフィショとの離婚裁判に関するものではない」として、無関係な質問であることに反発したのも至極当然であると言えよう。 さて、2人目の質問もこれはこれでひどい。概ね以下のような質問である。 I think that what we should all concentrate on is not your private affair between you and Vincent but the point of view of the children. I’m sure you heard about and your lawyers should heard about the 1989 convention of child rights the Japan is a singularity. This convention provides among others that kids who are on against their will separated still have the right to grow up with a stable relation with both. Now, very sincerely, you now, I know very well Vincent. I may be on this side because I met him many times. but I am a father I have four children five children. I have been separated many times and never never occurred to me or to the women I have children not to allow the children to see the other parent. Now from this point of view, don’t you think you are harming your kids by not letting them to see a father that we cannot deny that he loves them I mean if somebody goes under strike or is crazy or he loves very much. 日本語にするとこんな感じである。 注目すべきはあなたとフィショ氏の私生活ではなく、子どもの観点だ。あなたも、あなたの弁護士も、1989年の子どもの権利条約については、さすがに聞いたことがあるだろう。この条約では、子どもには、その意思に反して親と引き離されない権利が保障されており、両親と安定した関係を持ちながら成長発達する権利が保障されているのだ。 さて、謹んで申し上げるに、私はフィショ氏のことをよく知っている。何度も会っているので、フィショ氏に肩入れしているのかもしれない。しかし、私もまた父親であり、それぞれ4人、いや5人の子どもがいる。私は何度も別居したが、私も元パートナーも、それぞれ子どもに会わせないなんてことを考えたことなど一度もない。この観点からすると、あなたは父親に会わせないことによって、子どもに害をなしているとは思わないのか。フィショ氏が子どもを愛していることを否定することなどできまい。ハンガーストライキをしたり、熱狂したりするのは、それだけ愛しているからだと思う。 質問と言うより、持論の展開と皮肉である。 マダム・フィショの上記のコメントを受けて、あなたとフィショ氏の私生活なんか重要ではない、子どもの観点が大事だ!というのはまだ分かるものの、子どもの権利条約の条文をそのまま引用している。しかも、I’m sure you heard about and your lawyers should heard aboutと、水野の理解では、「(あなたのような分からず屋でも)子どもの権利条約くらいは当然聞いたことがあるでしょう?」という、皮肉をたっぷり込めた上から目線な質問を行っている。 この人の上から目線な論調は、実は質問の前から垣間見えていた。I really would like to ask you madam can you listen to me.と言っているのがそれである。水野の理解では、「私はあんたに聞きたいことがあるんだ。お前の耳は節穴じゃないな、聞こえてるか?」というように、マダム・フィショを小馬鹿にするようなニュアンスに受け取れた。 その後の部分も、自分には子どもが何人もいるが、一度も元パートナーに会わせないなんて思ったことはないとか、個人的な体験を語った上で、ハンストするなんてフィショ氏はよっぽど子どもを愛しているのに、会わせないなんて虐待だと言い始める始末である。 そもそも本件の会見内容とは直接関連しないし、質問者の持論を語っているだけで、質問になっていない。 マダム・フィショは、これに対して、「それはあなたの話でしょう?」と述べているが、本来、それ以上回答する必要のないものであると言えよう。 そして、最後のテレビ朝日の記者はなんと共同親権をどう思うかという質問をした。会見の冒頭で、神原弁護士が、「フィショ氏とマダム・フィショの離婚問題が、離婚後共同親権を推進する政治的な思惑によって利用され、そのせいでマダム・フィショが名誉を傷つけられた」と述べているのに、その状況であえて共同親権について尋ねるという行為自体が、二次被害だという自覚がないのだろうか。記者のTwitterをみるに、女性の社会進出などについて熱心な取材活動をしているように読めるだけに、なんとも残念である。 それ以外にも、通訳がparental authority(日本法で言うところの「親権」)と、custody(実際の養育や監護をさす)とを混同した通訳をしていたことなど、通訳にも残念な点があった。 しかし、上記3質問は、もはや会見を妨害しようとしているのではないかと思えるくらい、マダム・フィショの訴えとは無関係なもので、特に前二者は持論を語っているに過ぎないものであった。 昔、株主総会を妨害するために、意味のない質問をしまくるという戦術がとられたことがあったそうであるが、それを彷彿とさせるような質問内容であった。しかし逆に言えば、フィショ氏の側にとって、この裁判が注目されることは大きな痛手になると考えていることがうかがわれる。 裁判の行方を注目したい。
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Separated Fathers and the ‘Fathers’ Rights’ Movement とりあえずabstructの和訳
元記事はこちら 妻子と別居することになった父親は、配偶者や子どもとの関係性が終わるに際し、しばしば深い悲しみ、悲嘆、怒りを感じる。その一部は、父権運動の団体に参加する。父権運動とは、家庭裁判所その他の場において差別や不正義の被害を受けている男性や父親の利益を代弁する主張を行う運動のことをいう。しかし、かかる団体が、父親と子どもとの良好な関係性を修復したり、構築したり、あるいは維持したりすることに役立つということはほとんどない。一部の男性はそうした団体の支援を受け、怒りの感情を
Why Divorce Cases Involving Allegations Of Abuse Still Confound Family Courts 日本語訳4/6
ジェニファーケイガン・ヴィアターは元夫であるロビン・ブラウンと別れた後、昨年に非業の最期を遂げた。当初から高葛藤事案と見られており、裁判は3年を要した。それでも、次の期日は2020年の2月に予定されており、ケイガン・ヴィアターはブラウンが4歳半になる娘のケイラに接触することが、制限されることに期待を寄せていた。しかし、2月9日、ブラウンとケイラは、オンタリオ州ミルトンの著明なハイキングスポットである「ガラガラヘビの崖」と呼ばれる場所の麓で死んでいるのが見つかった。 ケイガン・
Why Divorce Cases Involving Allegations Of Abuse Still Confound Family Courts 日本語訳3/4
レイチェルビルンボウムは、高葛藤家庭と家庭内暴力の問題を抱える家庭の問題に、1990年代から取り組んでいる。西部の社会福祉の教授である彼女の研究が示唆するのは、「高葛藤」という言葉は、お金に関する痴話喧嘩から、深刻な虐待まで、幅広い概念を連続的に表すものとして用いられてきたと言うことである。 「家庭内暴力と高葛藤事案というのは区別する必要があります。ここは気をつけるべきポイントです」とビルンボウムはいう。彼女は同時に子どもの権利の研究もしている。「この2つは同じものではありま
Why Divorce Cases Involving Allegations Of Abuse Still Confound Family Courts 日本語訳2/4
ほとんどのカナダ人は、子どもがいるような場合でも、裁判まではせずに離婚(注:カナダは同性婚なども可能であるため、原文ではformal unionとされているものと思われるが、ここでは端的に離婚と訳した)することができている。裁判を起こすのは約20%、長期間の訴訟になるのは5%に過ぎない。 家庭裁判所の仕組みは不自由なもので、法的援助の資格を有しない場合は自費で弁護士を雇うか、自分自身で手続をする必要がある。費用面の問題が、離婚を希望する当事者が裁判外で解決する現実的な圧力にな
Why Divorce Cases Involving Allegations Of Abuse Still Confound Family Courts 日本語訳1/4
虐待の訴えのある離婚事案が未だに裁判所にとって悩ましい理由 新法はほろ苦い別れと真に危険な事案を区別すること、女性と子どもを危険から遠ざけることを目的としている あの夏の逃避行は一種の奇跡であった。 それは1997年のこと、ケイト(当時43歳)とルーク(当時3歳半)は、何年にもわたり、日に日にエスカレートする夫の感情的、精神的虐待にさらされながら生活してきた。5年にわたる結婚生活を経て、ケイトは夫が精神の健康を害して建設業者として働けなくくらいに悪化するところを見てきた。彼