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ビジネスホテルに泊まるという夢。

エッセイストのphaさんのブログに「一人で意味もなくビジネスホテルに泊まるのが好きだ」という記事がある。

2015年のものなので、もうだいぶ古いものだけれど、私はしばしば自分の書きものに行き詰ったときに、この記事をネットで検索してゆっくり読んでみることがある。

難しいことが書いてあるのでもない、笑えることが書いているのでもない、うん、なんかいいね、そう思える文章というのはなかなか少ないもので、そのなかでもこの記事は私のお気に入りとなっている。

phaさんは自宅にいると飽きて来るので、ときどき気分転換に「意味もなく」ビジネスホテルに泊まるのだそうだ。

ビジネスホテルは誰もが知る通り、そう個性的につくられているのではない。休めればそれで十分で、ベッドとテレビ、冷蔵庫、だいたいそんなもの揃っていて、どこのホテルに行こうが大きく様子が変わるのでもない。

でも、自宅とは違う環境というのは、それがたとえどんな簡素なものであっても(あるいは簡素だから)大きな刺激となるものだ。

phaさんは、部屋のドアを開けて、なかの空間を体験するその一瞬が好きなようだ。私もかつてたまに旅行したとき、やはりホテルに入る瞬間が一番楽しかった。観光名所を巡っているときよりも感極まっていたかもしれない。

またそのうちに、観光でなくてもどこかに行ったおり、ビジネスホテルに泊まってみたいと思う。

ビジネスホテルに泊まる夢、というのがこの記事のタイトルだけれど、そんなご大層なことかよ、と笑われてしまいそうだ。

もっとも私もビジネスホテルに泊まることができないほど、貧窮しているわけでもないし、旅行に行けないわけでもない。

でも、文章を書くようになってから、旅行もどこかホテルに一泊することも遠慮するようになった。

phaさんのこの文章を読むと、ああ、いいな、俺もビジネスホテルに行こうかな、と思い、いつのまにか、どこか近所(例えば大阪とか京都とか)に出かけて、ホテルに泊まってゆっくりしている自分を想像するのがもっとも楽しい時間になった。

で、いっそのことなら、これを目標にしたらどうだろうかと思ったのだ。ビジネスホテルに泊まるという夢。

私は文章でごはんを食べられるようになるのを目標にしているけれど、いまいち、成功した自分というのをイメージできない。

例えば、ノーベル文学賞をもらうとか、印税で何億と稼ぐとか、人気者になるとか、そういうことを考えると、自分がそれに見合う人物かどうかは脇に置いて、肩ひじ張って通りを偉そうに歩いているようで、違和感がある。もっというとしんどい。

生活の小さなことを拾い上げてそれでこつこつ文章をこしらえて、ほそぼそと飯を食ってくのが私の理想だ。

そのための目標として、ビジネスホテルに泊まる、というのはいかにも身の丈に合っている。

ところで、ビジネスホテルは一泊いくらするのだろうか。phaさん記事によると、4000円とあった。朝食は込みか? それは分からない。最後にホテルに泊まったのが、もう五年も前になるので、そのあたりのこともすっかり忘れている。

ともかく、私はまず、ホテル代の4000円を文章で稼がなくてはならないようだ。

誰でも、自分で儲けた金は、自分の好きなことに使いたいだろう。貯金も考えたが、華がない。ビジネスホテルも地味で華がないが、私にとってはちょっとした投資だ。

一泊してそこでまた文章を書きたい。

では、また!

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