2023のたほい屋 (水#11)
Written by 水述 諦
ごいりょくつよつよマンになりたーい♡
◇ ◇
ほとんど毎週、知らない単語に出会っている。30歳近くになってもこんなに何も知らないなんて本当に世界は広すぎるし楽しすぎるな、としばしば思う。物知りになりたいが、知るべきものの夥しさはあまりに底知れず、知れば知るほど自分が完璧な物知りからは遠い存在であることを知る。いわゆる無知の知だ。知識人とは無知の知をどれだけ知っているかということであり、だからソクラテスは「世界を知れ」ではなく「汝自身を知れ」と言っているのであろう。
私が2023年に出会った単語についてのメモを記す。
名古屋飛ばし
全国で行われるイベントが、名古屋で行われないこと。
(大都市である名古屋を飛ばすのは、東京や大阪へのアクセスが良いためではないかと思われる。たとえば名古屋で開催すべきだった諸経費を充てて北海道で開催すれば、「道内ならば行く」層を集めることができるのでトータルでの集客が見込める)
401K
1978年にアメリカで導入された確定拠出年金制度。これに伴い、日本の企業型確定拠出年金を「日本版401K」と呼ぶことがある。
名前の由来はアメリカの内国歳入法401条k項に基づいていることから。
ガスライティング
心理的虐待の一種。被害者に虚偽の情報を伝達し、記憶の錯誤を疑わせたり、正気を失わせたりすること。
由来は1938年のパトリック・ハミルトンの戯曲『ガス燈』から。
飯盒炊爨
飯盒炊飯のより正確な言い方。
(炊も爨も訓読は「かしぐ」と読み、飯を炊くことを指す。爨の字の7-9画目の部分がちょっと憶えにくい)
ラッフル
フリルに同じ。原語であるruffleは「波立つ」「しわくちゃにする」の意。
(ラッフルの語感がラッフルが指しているものととてもマッチしているように感じるのは、優しい凹凸のあるワッフルを連想させるからだろうか? しかし、フリルもまたフリルが指しているものを綺麗に連想させてくれる語感であるような気がする。たぶん偶然「ふりふり」に通じているからだろう)
アッシー・メッシー
バブル期に生まれた俗語で、女性にとって都合の良い男のこと。それぞれ「足 (=車) を用意してくれる男」「飯を奢ってくれる男」が由来。
(金品を貢いでくれる男を指す「ミツグくん」という言葉もあるが、これはあまりに捻りが無い)
上新粉
米粉のうち、特にうるち米を乾燥させて粉状にしたもの。目の細かいものが上新粉と呼ばれ、目が粗いものは並新粉として区別される。
(串団子を作るときは上新粉がベスト)
八百比丘尼
日本における伝説の一種。人魚の肉を食らい不老不死になった比丘尼。八百歳になり、生きることに飽いて自らの意志で餓死したとされる。
(「食べるだけで寿命が延びる食べ物」というのは生物の生存欲求に根付いた比較的ありふれた妄想の類だろうと思う。しかし、そんなものは無いという現実を悟られないように、なんだか探せばいそうな気がしないでもない人魚をチョイスしているのが面白いポイントだと思う。西洋のエリクサー、中国の仙丹、日本の変若水はいずれも「出所不明な得体の知れない薬」だが、人魚の肉は自然の恵みなので自然派の主婦層から絶大な人気を得ております)
ブックカース
盗難防止のため、書籍に記載される呪いの言葉。中世ヨーロッパの書籍の奥付などに見られる。
(普通に「この本を盗んだ奴は地獄へ堕ちる!」と書かれているので笑える)
オズボーンのチェックリスト
アイデア出しの手掛かりとなる9つの視点のこと。すなわち
① 転用 (他に使い道はないか?)
② 応用 (何かに応用できないか?)
③ 変更 (色や音や形を変えてみるとどうなるか?)
④ 拡大 (回数を増やしたり時間を長くしてみてはどうか?)
⑤ 縮小 (薄くしたり工程を短縮してみてはどうか?)
⑥ 代用 (他の材料や動力は使えないか?)
⑦ 再配置 (要素を取り替えたらどうなるか?)
⑧ 逆転 (役割や手順を入れ替えたり上下や裏表を変えてみてはどうか?)
⑨ 結合 (作業やアイデアを組み合わせたらどうか?)
を指す。
(オズボーンと言えばブレイン・ストーミングの発案者でもある。すごい)
完骨
耳の後ろにある小高い部分、およびその部位の骨。
(ひらがなが「AABB」と続く単語は珍しい気がする。「桃乳 (桃のように柔らかな乳房)」くらいか。いや、そんな言葉は無い)
燕尾草
クワイのこと。
(別名を田草とも言うが、田草は雑草のことも指すので、燕尾草を憶えておけば充分である)
ハッカソン
ハックとマラソンを合わせた造語。ソフトウェア開発者が集まり、1日~数週間に渡って集中的に作業を行うイベント。
(アメリカの場合、食事はピザと栄養ドリンク、睡眠は寝袋で雑魚寝で作業を進めることもあるという。命を削ってまでやるハッカソンは参加損である)
スコトーマ
心理的盲点。見えていたり聞こえているのに認識できていないもの。これが認識できるようになることは「スコトーマが外れる」と表現される。
(あなたがスコトーマという単語を知って間もなく、スコトーマという単語を急に頻繁に見かけるようになったとすれば、それは「今までスコトーマという単語は見かけていたが認識できていなかった」と考えられる)
ナムチムガイ
タイ料理で使用されるチリソース。日本では一般にスイートチリソースという名前で認識されている。
(私の実家では長らくこれを「タイの台所」と呼んでいたのだが、ある日ふと「これはタイ人以外が呼ぶときの表現だな」と思い至り、現地の呼び名を調べた)
現パロ
現代パロディの略。時代物やファンタジー作品の舞台を現代に変更した二次創作のジャンル。
モッパン
ハングル語で「食べる」と「放送」を組み合わせた韓国語の造語。いわゆる食事系動画のこと。
ハクティビズム
ハッカーが金銭的な理由ではなく自分たちの政治的または社会的な不満を表明するためにソフトウェア等に対して非倫理的な攻撃を行う、その意図のこと。ハクティビズムに基づくハッカーはハクティビストと呼ばれる。
デジタルフォレンジックス
不正アクセス等のセキュリティインシデントが発生した際、原因究明や法的証拠の保全を行うために電子的記録を解析すること。いわゆるデジタル鑑定。
アノマリー
ある法則や理論からみて説明ができない事柄。イレギュラー。
(アノマリーが残っているというのは、その学問にまだ楽しみが残されているということだろう)
ステガノグラフィ
あるデータの中に別の情報を埋め込んで隠蔽する技術。データの著作権や改ざん防止に使われる電子透かしなど。
(ステガノグラフィとは全く異なるのだが「あるデータの中に別の情報を埋め込んで隠蔽する」と言われるとcicada3301の暗号の一つ「オリジナル画像に含まれる素数を探してください」を思い出す。あるいは、リアル脱出ゲームでさんざん謎解きをさせておいて、終盤に「最初に使ったアイテムがあっただろう。あれにはもう一つの隠された意味があるのだ!」とする、あれだ。始まりの文脈と終わりの文脈で意味が見えてくるものが変わるというギミックにはやはり心躍るものがあるのだが、作る側の視点に立つとかなり技巧的なのでなかなか気軽に使える方法ではない)
枕絵
春画のこと。危絵とも言う。
キームガウアー
ドイツの一部地域で使われている「価値が目減りしていくお金」。半年ごとに3%ずつ減価していく (2022年時点)。
(腐るお金という発想が面白い。箪笥貯金を回避し経済を回すために使ってもらいたいという意図があるように思う。インフレのコントロールに対する金利操作以外の良いアプローチの一つだろう)
薄荷
ペパーミント。ハッカ味というときのハッカのこと。
(漢字で書くと全然ハッカ感が無くなるので意外だ)
仕事歌
作業をしながら歌う歌。臼を挽きながら歌う臼歌、田を植えながら歌う田植歌など。
(昔の人が現代の受験生を見たら「歌うんじゃなくて聴きながら勉強するんだ……」と思うことだろう)
上下・甲乙
邦楽で、基本より高い音 (かる) と 低い音 (める)。
(とんでもない当て字である。「和る」「減る」で和減の方がよっぽど良いと思う)
ewe
雌の羊。ユー。
(雄牛 = ox 以来の衝撃。文字列がシンプル過ぎる。ところで雄の羊は ram だが、これはラム肉のラムとは異なる。ラム肉は子羊 = lamb の肉である。ややこしい)
in the black
「儲かっている」の意味のイディオム。
(英語圏でも黒字と表現するのは興味深い)
アンクル・サム
アメリカの擬人化として登場する星柄シルクハットの白髭おじさん。第一次世界大戦募兵ポスターの指を差すおじさんは有名。
(彼の名前自体は昔から知っていたのだが、そう呼ばれるようになった経緯までは知らなかった。U.S. (United States) を Uncle Sam の略だとする冗談に由来するらしい)
ビクーニャ
ラクダ科の動物。かわいい。
サカバンバスピス
古代魚。その愛らしい顔が一時期ネットで話題になった。
(社内コミュニケーションツールのアイコンをサカバンバスピスにしている社員がおり「サカバンバスピスですか?」と訊いたところ「2人目の正解者です」と言われたことがある。「サカバンバスピスですか?」と訊く機会はたぶんあれが最初で最後だったであろう)
ピエト・モンドリアン
有名な抽象絵画『赤・青・黄色のコンポジション』の作者。新造形主義 (ネオ・プラスティシズム) と呼ばれる美術理論を主張した。
(『つぎはぎポケット』の表紙は『赤・青・黄色のコンポジション』を参考に制作した)
デフォルトモードネットワーク
何かに意識を向けているわけではなく、ぼーっとしている際に活性化する脳内のネットワーク。通称DMN.
(DMN は「何も考えていないときに活発化する」というのがミソである。DMN が活発になっているとき、情報の整理や出来事の振り返りが行われる。創造性の向上には「ぼーっとする時間」は大切だということを意味している)
レニー・ハート
総合格闘技の入場コールの声を担当している女性。巻き舌のあれ。
人中
鼻の下から上唇にかけての溝。
(ヒトにとっては単なる痕跡器官だが、多くの哺乳類にとっては鼻を湿らせておくための機能を持つ。ヒト以外の動物が命名するなら「保水溝」などとしていたところだが、よりにもよってヒトに命名されてしまったので「人の中心にあるあれ」みたいな適当な名前になってしまっている)
クイニーアマン
フランスの焼き菓子。バターをふんだんに使用しており、外はサクサク、中はふんわりしている。
(フィナンシェ・マドレーヌ・カヌレ・ガレット・ワッフル・クイニーアマン……。フランスには焼き菓子が多すぎる)
アネクメーネ
地球上で人類が永続的に居住していない地域。北極、南極、砂漠、高山など。
(「南極では風邪を引かない」と言われる。寒すぎるからというのは誤解で、南極には定住している人がおらず、ウィルスにとっての宿主が存在しないからというのが正しい。南極へ向かう人は風を引いた状態で南極へ行かないので (体内にウィルスが潜伏していた場合を除き) ウィルスが持ち込まれることは無い。このことは、だいたい全てのアネクメーネで同じことが言えるだろう)