乾杯
実家に暮らしていた頃、父は晩ご飯の時にお酒を飲む人ではなかった。
だから、食卓で乾杯する習慣はなかったように思う。
ひとり暮らしをしていた時は、もちろん、ひとりのため、乾杯をする相手はいなかった。
ルームシェアをしていた時は、わたし以外の4人はお酒を飲まなかったから、乾杯をすることはなかったと思う。
夫と一緒に住み始めて、特別な日は乾杯をするようになった。
いつもは、缶のまま、ビールを飲む。
特別な日は、冷え冷えのビールを、短いあしの付いたグラスに入れて乾杯する。
「乾杯!!」とわたしが言う。
夫は、「乾杯」のそのあとに、その時々の言葉をくれる。
わたしのお誕生日は「アキちゃんおめでとう」
夫のお誕生日は「アキちゃんありがとう」
息子たちの運動会のあとは、「アキちゃんお疲れさま」
夫が昇進した時は、「アキちゃんのおかげ」
ふたりでグラスをカチと合わせる時、
その瞬間の気持ちがグラスを通じて、伝わるのかもしれない。
ふっと頬がゆるむ。
なんだか照れ臭く、ビールをぐいっと飲む。
最近は、
「ぼくもカンパイする」
「ぼくも」
と息子たちが言う。
お茶の入ったコップを指差し、「これ、びーるってことね」
グラスふたつと、ミッキーのプラスチックのコップふたつ。
ガラスの音と、プラスチックの音。
カチ、ガチャ。
夫のまねなのか、「ママおつかれさま」と言う。
やっぱり、頬がゆるむ。
ビールを飲む。
ビールが入ったグラスをよっつ重ねる日が待ち遠しい。
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