地続きのヘヴン トカゲシリーズ
ボンジョルノ本日は、休日とします。
で、何しようかな?
BIGBANG賦活デーとします。つまみはゆっくり、コレ↓。
楽しみもおつまみチョイスも相変わらず、迷いゼロな俺。
とはいえ家事をダラダラやりながら。しかし聴いたり観たりたまにつまんで飲んだり、こんなしあわせな家事労働があるだろうか。てか労働じゃないじゃん遊んでるだけじゃんと言われればそうだが、おうちはちゃんと片付き洗濯物は気持ちよく干され、おいしいごひんは作られサーヴされる。夫・T兄が帰ってきても変わることはない。ただ、もっとずっと嬉しいだけで。
あ、いかん『BANG BANG BANG』始まっちゃったじゃん踊らないと❗️もー早く言ってよね❗️
正確な振り付けはこちら。みんなもやってみよう❗️ラストの回転さえ決めれば快感MAX🌟
天国や楽園なんて、遠いまぼろしと思っていた。
ただのイメージだと思っていた。
これか、と思えたようなこともあったが、いずれ失われるのだという恐れは大なり小なりいつもあり、実際失われた。そのショックはいつも必ず私を奈落の底に叩き落とした。
どうせこうなると分かってたのよ。
ひねくれた安堵すら感じながらそこに居て。でも生きるものの本能は嫌でも再びシャングリラを探す旅へとこの身を駆り立てた。いつも大抵間違っていたから、また同じことを繰り返す。
なんて安いドラマだろう。月9かよ。だっさ。
こんなこと繰り返して生涯を終える?
つまらなすぎる。虚しすぎる。これ、誰もが必須?やらなきゃダメ?
何者かが囁いた。
「やれって決まってはいねえ。ただ魂を腐らせるな、と言ってるんだ。」
そしてその者はカメラのレンズを替えるように、私の水晶体を別のレンズに変えた。
それは、普通の視力だった。めがねでも望遠鏡でもスマホやメディアの画面でもない。
私の、忘れていた裸眼だった。
足元を歩く蟻たち。飛び立つすずめ。アスファルトの隙間のコケ。青い空。
待って。
これは当たり前なの?
こうして立ってる二本の脚、見つめる二つの手、肩に落ちている髪、ひややかな空気を感じる肌と呼吸する肺、いつも笑いかけてくれるコンビニの人たち、明日私の作業を待ってる古いビル。
これらは当たり前なの?
こんなことある?
「分かったか?教えてやったんだから一杯奢れよ。久しぶりだな」
男は私の分身・トカゲだった。サングラスを上げて、懐かしい切れ長の澄んだ金の眼で笑った。レザボアドッグスみたいなスーツに鳩色の羽根のストール。
「良かったな。分かって。ま、コレが分かるくらいでゲシュタルト崩壊起こすようなパーに育てた覚えはないからな」
以来、焦点の合わせ方が瞬時に行えるようになった。
何食べたい?サッポロ一番塩味。何飲みたい?ワイン。今何したい?疲れたから座りたいっつか寝っころびたい。テレビは?要らない。ああ、フアフアのおふとんで寝たい。何着たい?黄色のスカート。上はTシャツでスニーカーはアディダス。何読む?今日はあの本。今日は景色を見たい。などなど。
なんでもいつも、心は即答する。
やがて、発想も奇妙に変化してきた。
例えばどこそこが痛い、と感じる。
以前なら、稲川淳二さんの怪談のように
「イヤだなー。イヤだなー。なんか怖いなー。」
とか思いながらも医者に行った。そしてかすりもしない診察を受けろくでもない薬をもらってカネを払い、効き目も意味も感じずに薬を飲んだ。
でも、それに意味が感じられないならなぜ行くのよ?
ガンが怖いだ?3人に2人とかがなるっていうならそれはもはや普通。風邪や虫歯と変わらないレベル。
(それに……)
「そう。それにお前は何度も死にかけた。際の世界まで行って還ってきた。それでまったく怖くなかったろ?」
トカゲは私のタバコを勝手に吸いながらベッドに寝そべり、言った。iQOSは慣れたらしい。以前は紙巻きを恋しがったが。今日はいつものキメた格好でなく、ふつうのグレーのアンダーシャツに細身のパンツにはだし。長くかけた銀のペンダントには、大粒のアンダルサイトがあらゆる色に光っていた。髪はこれまでで一番長い。
「ウンぜんぜん。最っ高だったし、あの金色の水、もの凄く美味しかったし」
私は思い出すように安ワインをちびりとやった。こんなもの比べものにならない。たとえ高級外車が買えるほどのワインだろうと、あれにはかないっこないだろう。
トカゲも注いでやったワインを飲んで、天を仰いだ。
「あれは俺も驚いた。あそこの水を勧められる人間なんて何千年もこの稼業やってきて聞いたこともねえ。お前変わりもんだからなあ。ただ、俺がこうして帰ってきたのはあのあとだったな、そういえば。多少のタイムラグはあるが」
「ウン。で、死ぬのはまったく怖くなくなってさ。あと、みんな必ず死ぬんだ、なあんだ安心❗️くらいに思ってね。「変なこと」しなきゃ苦しんで永らえるようなヤなことにはならないのも分かった。そうなったとしても意識は遊ばせられるわけだから、あの時みたく。
変なことって、怖がり続けて間違ったことしてたり薬とか人工度の高いことやモノをやりすぎることだよ。私副作用で2回、目つぶれかけたじゃん?
病気や苦痛や死ぬことを際限なく怖がり続けてきたのはなんでだろう私。
病気とかトラブルの意味は今は分かるよ。あれ、単なるズレ補整アラートでしょ。
ハイハイ分かったそこねー今直しまーすってやればすぐ止む。それ止めるのに、正直今の医療が適してるとは言い難い。自分の方が体も心も把握してる。私の「クルマ」なのよ。車検だろうが修理だろうがよく知りもしない人に任せたくないわ。医者がビックモーターと同じってケースよくあるって、患者としても元スタッフとしても長年やってきて知ってるしさあ」
トカゲはイヒヒと笑った。
「お前ってマジ、ヤベーわ。しょうがねえ俺が教育係だもんな」
「でさあ。【痛い】ってなあに?って思ったの。なんで痛いって感じて、それがイヤなのかな?私Mじゃぜんぜんないけど、生き物は苦痛をなぜ苦痛と捉えてるの?『あらなんかいい香り』とか『これ美味しい』って感じたらダメかなあ?」
トカゲはワインを噴かんばかりに爆笑した。
「その五十肩をか?アホ。出来るよ。痛みなんて単なる信号の一つに過ぎんからな。お前の受信機をいじっちまえば『あービール旨え』みたいなのにも変換出来る。その受信機を変ないじり方する奴らはいるけど、アレ麻薬だからな。捕まるか廃人になるか死ぬ。あれはいじってんじゃなくてぶっ壊して感じないようにしてるだけだ。恐怖だの不安だの焦燥感だの自信のなさだの。それがいやさに内臓取っ払ってるようなもんだから。本来、ちゃんと感じ取って「理解」して、正面突破するのが王道だ。ただ、お前みたいに突破してからさらにそういう妙な発想をする奴はいる。ガキのまんまだからなお前。これなあに?なんで?ってずーっとそやって観察してんだ。今のこの世の中に合う筈もねえか。
で、ナチュラルにやりたいんだろ。やってみな。出来る。教えた筈だ」
痛みは、月下美人の花に変わり、肩を飾った。馥郁たる香り。優しい肌触りの白く透き通る、大輪の花。
「どう?」
「変わってるが面白いんじゃないか?他人にはどーせ見えんしな。それ、タリスカーのいいやつとかに変えられるか?」
「私ウイスキーはあんまり。メーカーズマークは、まあ好きだけど」
車。バイク。自転車。飛行機。電車。
私のマシンはこの二本の脚。これだとすぐに見つかる花々、虹やきれいな生きものたち。野原を歩くふかふかした感触。五感六感は連動し、素敵を見つけては喜ぶ。
アパートの部屋に戻ってくつろぐ。迷わず選び出す音楽。脳内ライブラリはAmazon musicとかなんかの何十何百倍じゃきかない。年季が違うし好きの度合いも。無ければ作ってしまえば?でなきゃ鳥が鳴いてくれてる。可愛い歌詞つきで。
メニューは体が欲しがるもの。安い物でもこの手で魔法をかければそこらの三つ星も舌を巻く。シェフも洗い場もウェイトレスも出来るんだもの。好きだからさ。
飾られた花。摘んできた優雅な、名前の分からないグリーンのつる草と育てた新鮮なピンクのペチュニア。
恋人は、ルパンより心に宝石を一杯持ってて惜しげもなくポンポンくれる。大谷より伸び代がある男。頼り甲斐があって可愛くて、正体は白色の鳥だ。いてくれるだけでいいのに。
トラブル?将来に?ああ、スリルとか謎解きなら大好物だし大丈夫。それに美味しいものには食べ物でもアートでも人生でも、スパイスが欠かせない。少々の毒も要る。使いよう。
将来?ミーミー鳴いてる子猫たちとじゃれて笑ってる私と恋人が見える。これ以上ないほど幸福そうに。
そして、ふたりの年齢は分からない。見た目はほんと、いくつなのかしら。でもとてもいけてる。だから好きに設定するわ。26?2600?どうでも。
この脚で歩いて来られた。天国は地続きだった。ただ、見方と考え方を変えただけで。
トカゲが牡蠣にありえないほどタルタルソースをつけ、タバスコをたっぷりかけて、バゲットに載せてかぶりついた。口の周りや手をべたべたさせて。
「そうそう。こういう食べものって、手を汚すのがいちばん美味しいのよね」
「寿司とかもな。指まで美味い。前に教えたあそこ、こんど旦那と行ってみな。高かねえから。箸はくれねえぞ。ちゃんと付け台から手づかみで食えよ、親爺が腹立てるからな」