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おこりんぼ

白雪姫に出てくる七人の小人。その中に「おこりんぼ」というのがいた。
真ん中の赤い帽子。
すぐに腹を立て、いつもプンスカ。身近にこんな人いるなあ、と感じた人もいることだろう。


私の亡父もそうだった。
夫・T兄もそういうタイプ。


かつてはそういう人たちにおびえて接していた。が、どんな相手もすべて自分の感情を投影してくれてるだけと気がつくと、まったく怖くなくなった。
自分だけは正しい、なんてことこそが、この世で一番あり得ない。
水に浮かぶコルクを沈ませてやろうと力まかせに叩けばコルクは反発するだけでヘトヘトになるのは叩いたほう。どんな相手もコルク、あるいは鏡。同じこと。
川の水は立ちはだかる岩をぶっ倒して流れたりしない。ただ脇を通ってサラサラ流れてく。


先日、T兄がプンスカしながら帰ってきた。
タバコのカートンを買ってきたが、店員さんが銘柄を間違えたので交換してもらいに行ったら、謝罪のひと言もなかったのだと言って。
「これがS兄(彼の相棒的親友で、激おこカスハラアタックを得意とするがいつも店員さんに呆れられ笑われてしまうという愛らしい人)だったらタダじゃ済まないぜ?」

私は笑って言った。
「その子だってわざと間違えたわけじゃないだろうし、あなたが怒ったら怖がるわ。
間違えたことが人生で一回もない人なんていないでしょ?
それにそんな程度のことで怒るなんて、器量が小さいと思わない?
大きい男になろーよT兄😉」


T兄はふわっとした感じになり、だまって、私にも買ってきてくれたカートンをくれた(私の銘柄は合っていた)。
「わあ、ありがとう😊」


無理になだめすかしたりへつらったりはしないが、ほかの人たちとトラブルになるのは彼にとっても不本意なはず。基本、ほっとく。が、器が大きい人は老若男女問わずカッコいいもの。そしてみんなに好かれて色々、お得よね。
「ああ、そうなの😊」 
と、何があってもニコニコしてたらいい。

でも自分ではなかなかコントロール出来ないおこりんぼたちの苦しい胸のうちは、よく分かる。思い通りにならない人や物事、出来ない自分までくやしくて、悲しくて。
わあーーん!
そうやって泣いてる小さい子なら誰でも見たことがあるし、私自身もかつてはそんな子どもだったのだ。
そばにしゃがんでくれる優しい誰かがいた子も、いなかった子も。
自分でむん!と立ち上がって笑うことを覚えた子も、病気になってしまった子も。


思い通りになるコツは、なんでも受け入れること。まずは自分の欠点から。
そして他者も同じように受け入れる。すると必ず、相手は怒りからぽんと外れて、こちらを受け入れる。
「ごめん。こっちが悪かった」
「ううん。こっちも悪かった」
そんなふうにして友達になった子もいたっけ。あるいは、恋人に。

おやすみの日、T兄は給料日だったからとお寿司を取ってくれた。
いつも必ず相手に多く食べさせようとする。私の好物を毎日買って帰ってきてくれる。
私は毎日腕によりをかけてお料理をこしらえるのが楽しみ。


白雪姫が死ぬと、七人の小人たちは嘆き悲しむ。
彼女に唯一反抗的だったあのおこりんぼは、その時初めてはげしく泣いたのだ。

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