John Myungに捧ぐ
最も好きなベーシスト、ジョン・マイアング。通称「蜘蛛の手」。米ロックバンドDreamTheaterの初期からのメンバー。1967年生まれ、バークレー大学出身。
韓国系二世のアメリカ人で、初めて友達に勧められて見た当時は「ジョン・ミュング」と紹介されており、
「アメリカのバンドに中国人のベーシスト⁉️」と驚いた。
のちに「マイアング」と正しい読みに訂正されている。韓国では、本名はジョン・ロ・ミン、と発音されるようだ。
メタリカmeetsラッシュ、という言われ方をした世紀末の新種のモンスター。2枚目のアルバムが大ヒットし、世界にその名を轟かす。
変わっているのは、イケイケやれやれの当時のロック・メタル界で今どき?というようなプログレを全面に出して、それをラップやあらゆる音楽とミクスチュアした唯一無二の「ドリームシアターの音楽」を、自由そうに見えて実はジャンルやバンドの好みや価値観に凝り固まったロックファンにいきなり突きつけたことだった。クロスオーバーはシーンにありはしたし、レッチリも定着していたものの、温故知新の塊を持ってきてそこに何もかも混在させ、まとめあげるテクニックはほかに類を見ない。
しかも毎回アルバムの音楽が異なり、それなのにどこを聴いても
「ドリムシだ」としか言いようのないものに仕上がる。
まさに夢のシアター。
演奏は申し分ないどころの騒ぎじゃない。初期メンバーはほぼバークレー音楽大学出身者。23分の19拍子みたいな譜面をサラサラ書いたら即カンペキに演奏できるような連中なのだ。
↑ごく初期、90年台初頭のもの。それでもまだ新人で、あまりお金を遣ってもらってないmvだ。残念なカットもされている。
幼なじみであり、ずっと一緒に現在までやってきている竹馬の友、ギタリストのジョン・ペトルーシとの息詰まるようなかけ合いがカットされている。シングルとしては長すぎたのでそのインプロビゼーション部分は削るしかなかったのか。
最初の彼らの印象は、
「なんて難しそうなんだ❗️私、バカだから分かんないわ」というもの。YESは好きで高校の頃Relayerなんかを聴きまくったしVoivodも大好きだったのに、コレは理解不能。演奏は複雑すぎ、構成は複雑すぎ、歌詞も哲学的に高度で詩的、かと思えば突如ゴリゴリのデスラップとかカマしてくる。昔ながらのラーメンみたいなメタルナンバーも繰り出す。美麗なバラードもペトルーシのお家芸だし、どっかせつな系ポップスと言われてもなるほどと聴いてしまいそうなものも。ライブではインプロビゼーションはもとよりオケとの壮大なものもあり。ブラックの女性ソウルシンガーと感動的なソウルドラマのコンセプトアルバムを、ゴスペル隊も盛り込んで作り上げ、ライヴでも完全再現。
無理。
私の若く固く未熟な脳みそは、5分でパンクした。
だが、6弦ベースを自在に操る、黒い美しい長髪(常に姫君レベルの長さを誇る)の謎の「中国人」だけは、脳裏に焼きついた。
その彼が、古今東西星の数の数ほどいるミュージシャンの中で、私にとって不動のヒーローになったのは、実は遅い。2017年、武道館公演。あの年だ。
マイアング(ペトルーシと区別するため、ファミリーネームで)は、韓国からアメリカへ移住した両親のもとで生まれたが、小学校やコミュニティに東洋人が皆無だったためいじめに遭っていた。
だが、
「見た目や出身地だけで差別するような子たちと楽しく遊べるわけがない。もっとハートで通じ合える友達がいいと思って」孤高を通した。見上げた児童である。
そして、ペトルーシなど何人かのそうした「ほんとうの友達」と出会い、平たく言うと「グレた」。優等生の楽しい人生第二関門。
グレ方というのも旧時代のこと、友達のみんなとガレージバンドを始めただけだ。ガラクタ市でベースに出会い、自分がやりたいのはこれだと直感する。それまでは、両親が勧めるままにヴァイオリンをやっていた。
人種差別のいじめを自力で克服した彼は、今度は両親との長い闘いを強いられる。
つまり、ペトルーシらと名門バークレー音楽大学に入ったはいいが、ベースの練習とロックに明け暮れたため成績がガタ落ちしたのだ。
マイアングは、声を荒げたり暴力に訴えるタイプではなく、訴訟を起こしたりするような好戦的な所もまるでない。それは55の今も一貫して変わらない。
穏やかで、ほとんど口をきかない男だ。
だが、ベースを、ロックをやりたいという人生初めての自分の願いを、ただ黙々とやり続けることで徹底抗戦した。どんなに言われても、髪を切らなかった。(それで、あれほど長いのである)
結果、彼は望みのものを勝ち取った。仲間と共に。
しかし、石橋を叩いて叩いて粉々にするほどのカタさは保ち続ける。
練習は、ツアーとレコーディングがない時は毎日、6時間。早朝起きて、やるべき仕事を済ませてからだ。休んだことは何十年もの間、一日もないという。
趣味は腕立て伏せ。普通は100回だが、ノると200回くらい。主にライヴ前にやるらしい。もう一つの趣味は読書。禅にも興味があるらしく、初来日した頃は一人お寺に行きたがっていたらしい(分かりやすい奴ではある)。
ドラッグはもちろん、酒もタバコもやらない。「思考を濁らせたくないから」だそうだ。
唯一大好きな「刺激物」は、ダイエットコーラ。
女性に対しても非常に奥手で、メンバーがほとんど結婚した二十代後半、たまたま日本のインタビュアーにインタビューされた際、雑談的に他メンバーの結婚への祝辞を述べられると、恥ずかしそうに
「実はぼくも婚約したんだ」と告白する。
相手は普通の、ヘアサロンに勤める女性で、婚約期間はなんと一年と聞かされたインタビュアーは、驚いて尋ねた。
「一年も?最近では日本人だってそんなに長く婚約期間を取ったりしないけどね。なぜ?」
「じっくり、時間をかけて、お互いを見極めたいから」
逆にマジで親の顔が見たいケースではある。
ド純情というかド慎重というか生真面目というか。
ちなみに、その婚約者とは一年後めでたく結婚し、今ももちろん伴侶である。男子が一人いるが、もう成人している。家族の素性はそれ以外一切明かさない。
たとえばマフィアに監禁されて、今どきのクライムバイオレンス漫画みたいな拷問を受けたとしても、マイアングなら決して口を割らないだろう。
なぜならそうやって生きてきた男で、守るべき大切なもの…愛する者たちや、自分の信ずる音楽を通すことだけは、頑なに守り通してきたのだ。
前ドラマーのマイク・ポートノイと他メンバーが対立して険悪になった時も、ほかのメンバーが脱退した時も、マイアング一人だけがその渦中のメンバーについてひと言もしゃべらなかった。少なくとも、どこの国のメディア、どこのプレスにも、その記録は見当たらない。
他のメンバーは多少やいのやいの言っているが、マイアングだけは沈黙を通した。
今ではポートノイと現メンバーも良い友好関係にあり、それには黙って穏やかに微笑んで、ただ音楽のみを追求し続けたマイアングの存在が実は小さくはなかったのではないかと想像する。
メンバーは、家族同然なのだ。そして争うことは良くない、他者にひどい言葉を向けるのは愚かだと、幼い時心身に叩き込んだマイアングは、だから沈黙していたのだろう。
どんなに苦しかったろう。一人、言わないでいることは。そして、もしそうであっても彼は「辛かった」とさえ、口にしない。
彼はいつも、少年の時に感じた飛び立つような音楽の感動を、自分の思念と肉体を鍛えて表現する熱い夢を、常時忘れないだけだ。
ただ、それを、そんな生活を、そんな人生を何十年も保って開花させているミュージシャンなど、もの知らずの私はほかに知らない。
話すと甘い、小さな声だ。とてもソフトで、なめらか。
教則ビデオ以外単独インタビューに答えることはまれで、メンバーと一緒のインタビューではいつも端っこに座り、穏やかに笑っている。
だが質問が立て続けに自分に向かってきたりすると、だんだん「おなかが痛そうな感じ」になってくる。すると、すかさず饒舌な親友ペトルーシがカバーするといった具合。
彼が大爆笑している動画は、少なくとも、無数に見た中で一度、一瞬だけだ。
まだ十代後半くらいの頃、仲間といっしょにバックステージでくつろいでふざけているホームビデオだった。
それを偶然見た時、私は何故か泣いた。
テクニック云々は、専門的なことはわからない。「蜘蛛の手」というあだ名に表されるように、ベースという楽器でできることはおよそすべてできる。たとえばタッピング、ライトハンドなどは有名。実はベース、ヴァイオリン以外にもピアノも弾く。チャップマン・スティックという楽器の奏者でもある。一曲だけ、その不思議な音色で始まる名曲があった。
ただ本人は、6弦ベースにこだわり、弦もずっと同じ。同じアーニー・ボール愛用者だった私にはさらに❤️な案件ではある。
もっとバカテクの奴はいる、もっと凄い奴はいる、という話はよそでやってるようだが、比べるですって?
比べる、のであればむしろ彼は、テクニックそのものより、それに裏打ちされた抒情的でせつない美しいベースラインや、妖しく有機的に曲全体を引っ張ったり地底を支えたり、姿を変えて水のようにどこにでも馴染んでしまう音色が特徴といえば言えるかも知れない。影にいることを好むのだ。
マイアングの書く歌詞は、最近のはなかなかアグレッシブだ。ポジティブで、実はかなり頭の中の拓けた人でなければ書けない深い晴明さがある。
唯一、婚約者に捧げたラブソングがある。
ファンの間でも難解と評判だったが、別に難しいことはない。
詩の中の「その男」は「己の夢の影の部分を切り落とし」、「彼女」に導かれてなら海に行くことだってできる、と歌っている。
彼の、人生で唯一愛することになった恋人への、最大限の想いなのだろう。
彼がつま弾く美しいベースから始まるバラードだ。
小峠に似ている、ということをネットで言った人がいた。私はその人を一瞬憎んだが、マイアングに似ているなら小峠も好きになろう、と決めてネタを見たら小峠さんの大ファンになった。
だからって、私の浮気はもうマイアングにしか取って置いてないから。小峠さんとはダメだから。マイアング知った方が先だから。
だってマイアングみたいに胸筋と腕筋ないと。ゆびもエロくないと。
ハマった当時は
「マイアング、あいつきっとすっげえムッツリだぜ、あのカラダにあのゆびだし。絶対いつかヤる」
と妄想してたけど、マイアング、大丈夫もちろん襲わないですから。リサと末永くお幸せに。息子のこともリスペクトしてるようだし、流石よね。
また、もう一度。ステージの上の貴方に会えたら。
いまの夢想は、そんな、いまきっと誰もが抱くのと同じようなもの。
でも、貴方はきっとずっと変わらないでいてくれる。
壊される歴史的建造物より、噴火して無くなる山より、貴方という在り方と音楽がどんなに私にとって不朽の指標であることか。
そして、私はそれを、もちろん貴方には言わないわ。ひと言も。
遠い国のファンのままで、ずっといるだけ。それでいい。