『KING OF PRISM -Shiny Seven Stars-』愛の物語がはじまる10話
『KING OF PRISM -Shiny Seven Stars-』も残すところあと三話となった。
第一話で「PRISM1」の開催が発表され、第二話でユキノジョウの生き様を見せられ、第三話でエーデルローズに来てからのタイガの成長を見せられた。第四話ではカケルが目指す「愛」の姿を、第五話では愛が報われないものと成り果ててもステージに立つ高田馬場ジョージの意地を、第六話ではミナトが家族から受け取ってきた「愛」の底力を見せられた。
七話ではどんなにバカにされても自分の「愛」を貫くレオの覚悟を、第八話ではユウの誇りに思う「愛する仲間」を見せられ、九話ではアレクサンダーの「愛するスタァ」への敬愛が描かれた。
「愛」。
スピンオフ元『プリティーリズム・レインボーライブ』においても様々な事件を巻き起こし、そして登場する度にドラマチックな物語を紡いできた「愛」。
『KING OF PRISM -Shiny Seven Stars-』という12話の短編からなる物語を締めくくるのもやはり「愛」であり、そしてこの10話「如月ルヰ プリズムの使者」はそんな「愛の物語」の始まりの一話となるエピソードであった。
如月ルヰとは何者なのか
「如月ルヰは上位世界プリズムワールドから送り込まれた使者である」という情報は、これまで『KING OF PRISM』を視聴してきた人間にとっては別段驚くべきことではないだろう。
『KING OF PRISM -Shiny Seven Stars-』だけを見ても「彼には他のスタァとは違う何かがある」ということは触れられているし、前作においてナイトドリームフェザーをその背中に出現させている。
そのため作中でも「驚くべき真実」というよりは「やっと開示することが出来ました」と言わんばかりに落ち着いた開示の仕方となっている。が、そこで描かれたルヰの背景は驚くべきものであった。
如月ルヰが送り込まれたのは「かつてこの世界からプリズムの煌めきを消滅させようとしたシャインを再び葬るため」だった。
シャインとはプリズムワールドの使者に与えられた「プリズムの煌めきを広める」という使命を「自らがステージに立つ」という形で実現し、この世界からプリズムの煌めきを奪おうとした「滅びの化身」といえる存在である。
ルヰやシャイン、りんねやジュネのようなプリズムワールドの使者は類稀なるプリズムショーの才能を持つのだが彼らは所詮「異世界からの来訪者」。来訪者に過ぎない彼らがその世界で「唯一無二の存在」になってしまえば、その世界から永遠にプリズムの煌めきが失われてしまう。
そのためプリズムワールドの使者は「表舞台に立ってはいけない」というルールが存在しているのだが、シャインは早々に人類を導く計画に見切りをつけて自らがステージに立って輝くことを選択し、りんねの決死の覚悟によって封印されてしまった。
危険な存在だと認識しておきながら、りんねが「抹殺」ではなく「封印」を選んだのは彼女がシャインの事を愛していたから。愛しているが故に「殺す」という手段がどうしても取れず、封印することしか出来なかった。
そして「シャインが生きている」事を知ったプリズムワールドの存在達は、今度こそ危険因子たるシャインを抹殺するために再び使者を送り込むことにした。それが「如月ルヰ」という存在であった。
「今度こそ確実に葬るために」というプリズムワールドの意向から、全てのりんねの記憶を与えられてこの世界に降り立った如月ルヰであったが、シャインの転生体と言っていい一条シンに近づき、交流を続ける中で彼は一条シンに恋をし、彼を愛していくのだが、そんな彼の愛を込めたプリズムジャンプが再びシャインを復活へと導くというのだから残酷だ。
シャインを愛しているが故に殺す事ができなかったりんね。
そんなひたむきな愛情を利用して復活を果たしたシャイン。
一条シンを愛しているが故に、シンの記憶を盾にするシャインを殺せなかった如月ルヰ。
愛に振り回され、傷つき、あらゆるものを奪われて地へと堕ちた如月ルヰ。はたして彼はどうなってしまうのか。そしてシャインは何をするのか……というところで11話へと続いていくわけだが、これまでスタァ達の「愛」と、その愛がファンを笑顔にしていく光景を見せられてきただけに、最後のシャインの不敵な微笑みに「何をやるんだ」と不安感を掻き立てられる。
11話の「SIN」は原罪を意味する言葉だが、一条シン(並びにシャイン)は何を行うのだろうか。そしてこの物語の行末とは……。
法月総帥の変化
ところで法月仁の変化もこの10話の見どころの一つだろう。
「世の中に残るのは記憶より記録」「勝たなければ意味がない」と公言し、「勝つためであればどんなことだってする」という言葉どおり本当に手段を選ばずにあの手この手で氷室聖を追い込んでいく法月仁の姿は度々描かれてきたが、この10話では「正々堂々と戦い、心の底から聖を屈服させなければ意味がない」と真田常務を叱責するなど、これまでの法月仁では考えられない行動をしている。
なぜ法月仁はここまで変わったのだろうか。
それはおそらく「あるがままの彼を認めてくれる者達がいたから」だろう。
これまでの法月仁には「あるがままの自分」を愛してくれる人がいなかった。
母親も父親も、法月仁を「法月仁」として愛してはくれなかった。
自分のパーソナリティ的な部分ではなく自分に付随するステータスで判断される世界で育った法月仁は手段を選ばない人間となった。負ければ意味がない。勝たなければ認められることはない。そうした世界で育った彼は「勝つ」ということのみに執着する人間へと成長するしかなかった。
しかし彼は法月皇から認められることはなかった。プリズムショー界からの追放を言い渡された法月仁は彼の主観において「何もない」人間となった。
しかし高田馬場ジョージや如月ルヰはそんな仁を認めてくれた。
父親から糾弾された「勝つためなら手段を選ばない」という点もジョージは認めてくれたし、如月ルヰは自分のパーソナリティな部分も愛してくれた。誰も認めてくれなかった自分を心の底から愛してくれる存在を、法月仁は一度全てを失い地に落ちた事でようやく手に入れることが出来たのだ。
法月仁は「正々堂々勝たなければ意味がない」と叫ぶのは結局のところ「前に進むため」だろう。
自分から全てを奪い、嫡男である自分を差し置いて法月皇の後継者となってしまった氷室聖を倒さなければ前に進めない。
それを強く理解しているからこそ、法月仁は「正々堂々と倒す」ということにこだわる。だから真田常務に対して激怒したのである。
(ということは、当然今回のPRISM1に勝利したとしても法月仁は満たされないということになる。「聖と決着を付ける」というその意思のもとで作り上げたステージを「余計なお世話」で汚されたのだからそりゃ怒って当然である)
最後に
10話のEDは「愛がもう少し欲しいよ」。如月ルヰの心境を如実に表しており、選曲センスは素晴らしいのだが、来週はいよいよ11話であることを考えると既に視聴済みの人間としては心境は複雑だ。
ただ少なくとも11話と12話は「これを見なければ何の意味もない」と言えるプリズムショーが待っているので、まだ見ていない方は期待して欲しい。