『ウマ娘 プリティーダービー ROAD TO THE TOP』三強と呼ばれたウマ娘達の光と影の力強さ
皐月賞開催日に始まった『ウマ娘 プリティーダービー ROAD TO THE TOP』が、NHKマイルカップ開催日に終わりました。youtube配信アニメで全4話。
『ウマ娘』のアニメとしては初めて「99年クラシックのみを描く」ということに挑戦した作品だったんですが、「特定時期に物語を絞るからこそ描けるもの」があることをしっかりと示した作品として良かったと思います。
舞台版もそうなんですが、「こういうやり方も出来る」という経験値は蓄積していけば蓄積していくほど「ゲーム以外の媒体で見られるウマ娘」も増えていくので、今後もドンドンやってほしいんですが、『ROAD TO THE TOP』の話をしておくと「想像よりは遥かにしっかりとした物語」で「ゲームアプリとの差異も含めて楽しい作品」というファンにとってはもちろん、そうでない人にも楽しめるんじゃないかなァと思うような作品でした。
アドマイヤベガの贖罪
『ウマ娘 プリティーダービー ROAD TO THE TOP』における実質的な主人公は二人いて、その二人のうちの一人がアドマイヤベガ。
彼女が走る理由は『妹の代わりに生まれてきた自分は、妹の代わりに勝たなければいけない』という贖罪なんですね。
ストイックに見えるけど自罰的だし、勝利は自分への称賛ではなく妹へ赦しを請うための捧げ物。
それがアドマイヤベガと言うウマ娘だったんですが、そんな彼女に変化が訪れたレースが第二話で描かれた日本ダービーで、ナリタトップロード、テイエムオペラオーとの激闘を制して「ダービーウマ娘」となった彼女の中にあったのは「楽しい」という思いでした。
それは生まれながらにして罪を背負い、自分には自分の意志で走る資格なんて無いと思っているアドマイヤベガにとって、もっとも罪深いこと。なので彼女は「菊花賞に勝って、アドマイヤベガという走りを終わらせる」と考えるようになっていく。
この辺りの基本的な流れはゲームアプリでも同じなので、おそらく今回の『ROAD TO THE TOP』にあたってゲームの育成シナリオが参考にされているのはほぼ間違いないかなと思います。
アドマイヤベガが罪の意識を芽生えさせるのはゲームアプリでは夏合宿中のある出来事によるものであったり、同室のカレンチャンが自分を痛めつけるアドマイヤベガに激怒したエピソードが語られたりと細かい部分では違う。
この辺りは「テイエムオペラオー」「ナリタトップロード」との絡みも含めて調整された結果こういう形に落ち着いたと思うのですが、アニメだと「上手-下手」と「光/影」という映像演出の基本に忠実な組み立てによって、ゲームアプリ以上に「闇に落ち、過去を見つめる存在」として描かれていたと思います。
特に第四話はそうした演出が生きていましたね。
「ライバルになりたい」と告げたナリタトップロードを交わし、光から影へと移動しようとしたアドマイヤベガの腕を掴み、光の中に留まらせたナリタトップロードの仕草は、菊花賞で彼女が果たした役割と同じでとてもよかった。
そうした部分の組み立てがナリタトップロードの走りによって呼び起こされた「走り続けていきたい」という思いを見せた時に繋がってるんですよね。
ナリタトップロードという光
もう一人の主人公となっていたナリタトップロードの物語は、彼女の戦績やエピソードを見て予想されていたように「多くの人達に期待されながらも、期待に応えきれない結果を出し続けていた優等生が、最後の最後の菊花賞で皆の期待に答える大金星を上げる」と言ったものでした。
アドマイヤベガを「沈みゆく夕日」「黄昏」とするなら、ナリタトップロードは「登り始めた朝日」「暁」と言った印象なんですけど、そんな彼女を応援したくなるのはやっぱり「ナリタトップロードだから」だと思うんですよ。
「期待に応えたい。でも現実は期待に応えきれていない」。
涙を流すほどの悔しさを味わっても諦めない彼女の姿からは目が離せない。今度こそはやってくれると信じたくなる。結果を知っていても応援したくなる。
こうした「史実を知っていても、結果はわかってても応援したくなる」をひっくるめて「お前さんがナリタトップロードだから。戦い続けるから応援したくなるんだ」と思うんですよね。
そしてその辺りの「ナリタトップロードらしさ」は菊花賞でも出している。
コーナーを抜けて最終直線に入った時、ナリタトップロードが見たのは応援してくれている人達で、彼らの顔を見てからスパートをかけている。
またテイエムオペラオーとラピッドビルダー(史実ではラスカルスズカ)との一着争いは作画のお化けを使ったりと凄まじい出来。三人の勝利への執念を感じさせる、そして「期待」「自分」と戦い続けたナリタトップロードに相応しいクラシック最後の戦いだったと思います。
テイエムオペラオーという覇王
ナリタトップロードとアドマイヤベガを中心に物語が組まれていたことと、戦績面で言えば翌年からの方が本番ということもあって、今作におけるテイエムオペラオーは狂言回し的な立ち位置に。
中心格が大事な思いは内に秘めがちなナリタトップロードとアドマイヤベガだったので、空気が滅茶苦茶読めるし、重要なことは全部喋ってくれるテイエムオペラオーが狂言回し的な立ち位置に収まってくれる事でシナリオ進行もスムーズで良かったと思うのですが、そうした部分を一旦抜きにして『ROAD TO THE TOP』のテイエムオペラオーのどこが凄かったかというと、やっぱり「世紀末覇王へと徐々に覚醒していく」だと思うんですよ。
皐月賞も日本ダービーも、ゲームアプリなどで見るテイエムオペラオーではなくて、まだ伸び切ってないというか「演じようとしている」と言う雰囲気があるんですけど、三話四話のテイエムオペラオーは見慣れたテイエムオペラオーへと変わっている。
特に四話は菊花賞のその先まで見据えた大物っぷりで「覇王が覚醒した」ということを感じさせる。
これは脚本や演出もありますが、徳井青空が凄いなと思いましたね。
徐々にユーザー視点では『見慣れた姿』になっていくのはキャリアの長い声優だからこそ出来る演技の組み立て方で良かったです。レース運びみたいだな……。
期待されるもの&少し足りなかったもの
ただ個人的にはもう一話ぐらいあっても良かったかなと思いました。
アドマイヤベガとナリタトップロードの関係性が主軸になっているのに、この二人の物語が意外と交わらない。それぞれの物語が大きく動くのが日本ダービー後なので仕方がない部分もあるんですが、もう一話ぐらいあってもよかったのかなと。二人の心理的な距離感がもうちょっと近づいていたら、もっと良くなっていた気がしますね。まあそこまでやるなら「全6話にしてアグネスデジタルも出してよ」って言いたくなるんで、ワガママですね。
それよりライスシャワーとハルウララとオグリキャップをサブキャラクターとして配置しているところが良かったですね。
「皆の期待」がナリタトップロードの物語で重要になっているので、この3人が登場しているんだと思うんですけど、オグリキャップがテイエムオペラオー側に配置されていたのが地味に良かったです。なんですかね。あそこだけちょっと空気が違うのが良いんですよね。テイエムオペラオーがオグリキャップにだけは全部話してる感じとか好きでした。