『KING OF PRISM -Shiny Seven Stars-』今作の良かった点について補足
『KING OF PRISM -Shiny Seven Stars-』については前回書いた記事で終わりのつもりであったが、BSでの最終話を見ていたら「そういえば12話全体で描かれていた法月仁についてはほぼノータッチで、シリーズ構成の美しさについて全く褒めていないのでは?」という事に気づいたので補足としてその二点について書いておく。
シリーズ構成が上手い
『KING OF PRISM -Shiny Seven Stars-』は1話が「今作は何をやるのか」という導入で、2話から9話が各プリズムスタァ達の物語、10話から12話が今作を終わらせるための物語という序破急の三幕構成になっている。
1クール12話の中でプリズムスタァ達だけで10人も存在していること、菱田正和監督がこれまで散りばめてきた伏線やエピソードを最終盤になって畳み掛けるように回収・昇華していく作風を得意としていることから考えると、この序破急の構成になるのは最適解ではないかと思う。
その構成から大きく離れることがなく、むしろ構成としては極めて定石的である点には菱田監督のある種のお約束を大事にする姿勢を感じてしまうが、テレビ放送に合わせて毎週一話づつ見ていくと「この構成だからシャインの所業と、シンが背負うことになった罪が際立つ」という事に気付かされる。
一話から九話までの各プリズムショーにおいて、プリズムスタァ達のパフォーマンスはいずれも観客を楽しませる事に主眼が置かれている。
黒川冷が切り開いたストリート系プリズムショーを尊ぶ大和アレクサンダーですら、そのストリート系のスタァ同士の激しいバトルをプロレスのようなエンターテイメントへと昇華し、手に汗握る攻防で観客達を楽しませる。
10話の如月ルヰもその好意はシンに向けられているものとはいえ「貴方とのデート」をプリズムショーで表現し、観客と楽しさとワクワク感を共有するものになっているのだが、シャインだけは違う。
彼は「自分の愛を一方的に押し付ける」という観客のことをまるで考えていないプリズムショーを行っている。そしてそれにより観客達の心を深く傷つけていく。
「簡単には癒えない傷を与える事で、シャインを否が応でも意識せざるを得ない」というサディスティックなプリズムショーを行ったシャインの所業は、これまでの「楽しんで欲しい」というプリズムショーとは対極に位置するものだ。だからこそ視聴者の目には「倒さなければいけないもの」として強く心に残る。
最終話である12話ではシャインを倒すためのプリズムショーを行うわけだが、愛を押し付けるシャインに対して「愛で寄り添う」プリズムショーで対抗するエーデルローズ生達という構図は、決着の付け方としては申し分ない。
きちんと終盤で盛り上げきったところで終わらせてきて、私などは「さすがは菱田正和監督」とさらに信頼した次第である。
もう一人の主人公・法月仁
法月仁の物語が次の段階へと進んだことも個人的に凄かった点の一つだ。
かつては氷室聖、黒川冷と共に三強と呼ばれていたトッププリズムスタァで引退後はエーデルローズ主宰として活躍していたものの、これまで行ってきた全ての悪行を暴露され、父親の法月皇から「金輪際プリズムショーに関わるな」と業界追放処分を受けた法月仁。
『KING OF PRISM』では「シュワルツローズ」という巨大組織の総帥として君臨。「どんな手を使ってでも氷室聖を叩き潰す」と義弟・氷室聖が主宰を務めるようになったエーデルローズに攻撃を仕掛けてきたわけだが、『KING OF PRISM -Shiny Seven Stars-』終盤ではこれまでの「どんな手を使ってでも倒す」法月仁の姿とは打って変わり、真田常務の策略を糾弾し「正々堂々と叩き潰さなければ意味がない」という姿を見せる。
なぜ法月仁は「正々堂々と戦った上で超える」という事にこだわるほど心変わりをするようになったのだろうか。
その辺りは直接的には描かれていないが、状況的にはおそらく自分のやり方を肯定してくれる高田馬場ジョージと、法月仁を「法月仁」という人間として愛してくれる如月ルヰの存在が合ったからだろう。
これまでの法月仁は「氷室聖を超える」ということでしか自分を肯定出来なかった。勝つことにしか自分の価値を見いだせていなかったのだ。
だから勝つために自分が正しいと思ってやってきたことを「人として最低だ」「二度と関わるな」と父に言われた段階で、彼は今までの全てを否定されたも同然だった。
その後父は他界。自分のやり方を認めてくれる父親がいなくなったことで、法月仁は「父親自分のやり方を認めさせる」が永遠にできなくなってしまった。
氷室聖に固執していたのは「父親の後継者」だからだろう。
父親の後継者である氷室聖を倒すことで父親の間違いを証明する。そのために法月仁は戦ってきたのだ。
しかし高田馬場ジョージと如月ルヰとの出会いが彼を大きく変える。
ジョージは「どんな手段でもいいから勝つことが大事」という法月仁の思想を肯定し、受け継ぐプリズムスタァだった。歌は多少下手かもしれない。しかし彼は自分のやり方を肯定し、全身全霊を持って自分の考えを体現するべく努力し続けた。
如月ルヰは法月仁を法月仁として愛してくれた。格でしか自分を見てくれなかった母親とは違い、「法月仁」という人間として向き合って愛してくれた。
そうした経験が法月仁は「後継者に聖を指定した父親の間違いを証明するため」ではなく「自分のやり方が間違いではなかった事を証明するため」に「正々堂々と倒さなければ意味がない」と思わせるようになる。
だから法月仁は真正面からエーデルローズと戦うことを熱望していたのだ。
今作では真田常務やシャインのせいで台無しになってしまったが、法月仁はこれからも氷室聖との最終決戦を実現させるべく、あらゆる手段を持ってエーデルローズに挑んでくるに違いない。
二人の最終的な決着は「正々堂々とした戦い」でしか決着のつけようがなくなってしまったため、今後の物語が紡がれるのであれば二人の思想の違いも述べられていくのだろう(黒川冷についても必要だろう)。
「法月仁の物語-第三幕-」の開幕を楽しみにしたい。
最後に
こうして書き出すほど「続きを早く!」「私達をこんな気持ちにさせて!」という気持ちが強くなったので、完全に失敗だった気がしないでもない。
でも一番見たいのは「四連続ジャンプを飛んだ氷室聖と、その話を聞いて精神的に追い詰められていく法月仁、聖と戦える事を熱望して自分を高めていく黒川冷……」という三強の時代のエピソード。
『プリティーリズム・レインボーライブ』『KING OF PRISM』ビギンズとでも言うべき内容だが、どこかでやってほしい。西さん、依田さん、楽しみにしてます。