君に贈る火星の
田中さんは、火星に行くのが夢だった。
一度は宇宙飛行士を目指していたが、体力が足りずに見事に挫折した。
一般の人も宇宙旅行が出来る未来が来たら、絶対火星に行くんだ、と奥さんにも度々話していた。
そんな田中さんが病に倒れた。
奥さんは仕事が忙しく、コロナ禍もあってなかなか見舞いには行けない。田中さんと奥さんはSNSを通じてよく会話をしていた。
しかし治療も空しく、田中さんは亡くなってしまった。奥さんは悲しみを堪えながら、葬儀の準備にいそしんでいた。
そんな時。
ピコ、と奥さんのスマホが鳴った。SNSの新着通知だ。こんな時に誰だろう、と見てみると、旦那さんのアカウントからだった。
『やった! 俺、ついに火星に来たぞ!』
続いて全体的に赤茶けた岩場の写真。
そして。
『これが、最後に君に贈る火星の』
そこでメッセージは終わっていた。
奥さんは、そのメッセージを今も大事に保存している。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?