水沢ながる

ぼちぼちやってる人です。

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最近の記事

イライラするクリスマス

クリスマスだというのに、イライラする。 世の中の人はこんなにクリスマスを謳歌しているのに、自分は今年も仕事だ。 しかもこれは、今日中に済ませないといけない結構ハードなお仕事。内容は宅配業でそれほど大きな荷物はないけど、いかんせん配達数が多すぎるし装備は旧式だし誤配は絶対厳禁、届けるのにもあれこれと細心の注意が必要だ。これが毎年じゃ、恋人とデートも出来やしない。 でも仕方がない、百年契約だもんな。 ああ、あと2948件。 やってられないよ、サンタクロースなんて。 ショートシ

    • 雪だるまの密室

      「本当に、申し訳ありません」  お父さんとお母さんが知らない人に謝っている。また叔父さんが何かやらかしたらしい。こんな田舎まで、よく追っかけて来るよね。  叔父さんはよくトラブルを起こす度にうちを頼って来る。お父さんもお母さんも正直迷惑に思ってるんだけど、親戚だからなかなか切れないらしい。当の叔父さんはいつもヘラヘラしている。  まあ私も叔父さんは嫌いだけど。誰も見てない所では私を触って来たりするから。だから叔父さんがいる時は、なるべくお兄ちゃんと一緒にいることにしてる

      • ショートショートnote杯の結果が出ました!

         私の作品「数学ギョウザ」がガジェット通信賞をいただきました。  ありがとうございます!

        •  伯父は煙草の煙で色々な形を作ることが出来た。定番の輪っか、動物の形の煙、人型の煙。これしか芸がないんだ、とよく笑っていた。人懐っこい笑顔だった。  伯父がフーッと煙を吐き出すと、瞬時に様々な形を取り、そのままゆらゆらと消えてしまう。それはまるで魔法のようだった。  いや、本当に魔法だったのかも知れない。大人になって煙草を吸うようになっても、私には同じようなことは出来なかった。かろうじて輪っかを作ることは出来ても、伯父のように様々な形を作れるようにはついになれなかった。

        イライラするクリスマス

          道に落ちていた結婚式

           最近、若者達の間で流行っているのが「路上結婚式」だ。  文字通り路上で行う結婚式で、お金がなくて結婚式場やホールを借りられないカップルが「場所がないならその辺の道端でやっちゃおう」と、大通りの一角で始めたのが最初と言われる。  その光景を撮った写真が「#道に落ちていた結婚式」というハッシュタグと共にSNSで拡散され、一気に広まった。中にはちゃんと許可を取って行うカップルもいるが、大抵は無許可でゲリラ的に行われる。  突然道の一角にライトバンが停まり、中から新郎新婦が出

          道に落ちていた結婚式

          神様注意報

           この町の秋祭には、昔から一つだけ掟がある。祭の前夜12時から一時間程、神様が町を廻り歩くという。その間、誰もその姿を見てはいけないのだ。見たら祟りがあると言われている。  神様が町を廻る道筋は毎年神主さんが占いで決める。ルートが決定すると、その界隈に住む全ての住人に前もって通達がある。中には、この通達を「神様注意報」と呼んでいる者もいる。  宮田君の友人のS君は、祟りを信じていなかった。彼はこの夜、神様を見ようとしていた。  当日、宮田君達はSNSを通してS君と繋がっ

          神様注意報

          君に贈る火星の

           田中さんは、火星に行くのが夢だった。  一度は宇宙飛行士を目指していたが、体力が足りずに見事に挫折した。  一般の人も宇宙旅行が出来る未来が来たら、絶対火星に行くんだ、と奥さんにも度々話していた。  そんな田中さんが病に倒れた。  奥さんは仕事が忙しく、コロナ禍もあってなかなか見舞いには行けない。田中さんと奥さんはSNSを通じてよく会話をしていた。  しかし治療も空しく、田中さんは亡くなってしまった。奥さんは悲しみを堪えながら、葬儀の準備にいそしんでいた。  そ

          君に贈る火星の

          空飛ぶストレート

           有希さん(仮名)は、子供の頃から癖っ毛がコンプレックスだった。  ストレートパーマは母や祖母に禁止されていた。大学生になっても、成人になっても、許されない。理由は不明だった。  有希さんは就活でいくつもの会社の面接を受けたが、全て落ちた。さらに、彼氏にもふられてしまった。  ここは心機一転、イメージチェンジをしようと、有希さんは思い切ってストレートパーマをかけてみた。実家を離れているので、止める者もいない。  その夜、有希さんはおかしな夢を見た。自分の首だけが体を離

          空飛ぶストレート

          アナログバイリンガル

           高校生の佐藤君は、去年まで英語が苦手だった。どうしてこの世に英語があるんだ、と世を呪う程度には。  そんな佐藤君が編み出した勉強法は、実にアナログなものだった。昔ながらの「本を食べる」という方法だ。  無論、本当に本を食べるわけではない。食パンにチョコペンで単語や文法などを書いて食べるのだ。某猫型ロボットのマンガを参考にしたらしい。  体重は3キロ増えたが、成績も格段に上がった。友人達から「アナログバイリンガル」というあだ名で呼ばれるようになったくらいだ。  英語は

          アナログバイリンガル

          1億円の低カロリー

           地元の食品会社が開発したダイエット用クッキーが大人気だ。低カロリーで腹持ちが良く、しかも美味しいと来ている。  しかし、販売当初は全く売れなかったのだという。ドラッグストアなどで試供品を配ってもダメ、大々的に広告を打ってもダメ、パッケージデザインを変えてみてもダメ。  それでも何とか良さをアピールしようと、ネットでモニターを募って試してもらうことにした。  しばらくすると、モニターの一人がSNSにこんな書き込みをした。 「このクッキーを食べてから、ラッキーなことがい

          1億円の低カロリー

          数学ギョウザ

           中華料理店「鶴亀亭」の名物メニューが「数学ギョウザ」だ。  このギョウザには数学の問題がついて来て、それに正解すると料金を割引にしてもらえる。問題は小学生の算数レベルから恐ろしく高度なレベルまであり、レベルによって割引率は変化する。  聞くと店のご主人の先祖は各地の寺社に算額を奉納していたらしく、数学好きは血筋なのかも知れない。  この店の常連の山田君は、数学ギョウザの問題を解くのが好きだった。簡単な問題から、徐々にレベルの高い問題に挑戦し、ついに最高難度の問題に到達

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          違法の冷蔵庫

           阿野山の奥には、「冷蔵庫の墓場」がある。  どこかの回収業者が大量の冷蔵庫を不法投棄したのだ。もちろんそれ自体違法だ。  だが、問題はそれだけではない。投棄された冷蔵庫の多くは、自律稼働式の冷蔵庫なのである。  ご存知のように、自律稼働式の冷蔵庫は人間を食材と間違えて庫内に収納して冷却してしまう事故が多発し、今では法律で全面的に禁止されている。廃棄する時もきちんと処理をして、動き出さないようにしないとならない。  しかし不法投棄するような輩がそんな法律を守るわけもな

          違法の冷蔵庫

          金持ちジュリエット

           金持ちジュリエット。  もちろん、あだ名だ。  彼女はこの街一番の資産家の娘だ。そんなお嬢様がどうしてそんな呼ばれ方をしているかというと、彼女はずっとロミオを待っているからだ。  始まりは学生時代のことだという。ダンスパーティーの場でたまたま一緒に踊ることになった、その相手がロミオだった。  手を取った時、彼女は雷に打たれたように感じたという。「この人が私の運命の相手だ」と。二人はそのまま名乗ることもなく別れた。  その時から、彼女は彼を待っている。運命の相手だから、また巡

          金持ちジュリエット

          しゃべるピアノ

           彼女がピアノを始めたのは、声を失ってからだという。  音楽は好きだったが、自分で楽器を演奏しようと思うことはなかった。ある時、事故で声帯を傷付けてしまい、友人とおしゃべりすることも出来なくなった。  失意の彼女が出会ったのは、駅に置かれた一台のピアノだった。通りすがりに誰でも弾ける、いわゆる駅ピアノだ。  彼女は何の気無しに一つ鍵盤を押してみた。すると、ピアノがしゃべったのだという。 『どうしたの?』  確かにそう言った、と彼女は言った。さらに弾いてみると、 『

          しゃべるピアノ

          株式会社リストラ

           株式会社リストラ。  信じられないだろうが、実在する会社である。  この会社について、ネットでは様々に噂されている。やれリストラが常態化されていて、営業成績が下がると肩叩きされるだの、そのプレッシャーで精神を病む者が絶えないだの。  そんな会社があれば、間違いなく労働基準監督署に目を付けられるだろう。だが実際にそこでリストラにあったという人は一人もいないのだ。  実際に行ってみると、社内の雰囲気も落ち着いていて、ブラックそうには見えない。  社長に聞くと、祖父が興

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          コロコロ変わる名探偵

           不可解な事件が起きると、どこからともなくやって来て解決してしまう名探偵。だが、その素顔を見た者はいない。何故かって? 彼(?)はいつも、ピンクのウサギの着ぐるみを着ているからだ。  人呼んで「着ぐるみ探偵」。「中の人」が誰なのか、誰も知らない。  ある時、僕は宿泊先のホテルで殺人事件に巻き込まれてしまった。  警察の聴取を終えて僕が部屋に戻ると、見慣れない大きな箱が置いてある。恐る恐る開けると、中に入っていたのはウサギの着ぐるみだ。え、これってまさか? 「おめでとう、あ

          コロコロ変わる名探偵