ヨルシカさんの盗作の感想
ヨルシカさんのアルバム『盗作』及び初回限定盤の小説の、特に歌詞について感じたことを書きます。(ネタバレあるかもです)
物語を読むとき、登場人物ではなく作り手の心情や意図を気にしてしまうことがあって、
作品内の「音楽の盗作をする男」の曲として聴くか、ヨルシカさんの曲として聴くかという揺れが僕にはありました。
一般に、物語と比べると歌詞は作り手のことが書かれていると思われる傾向があるようなので、
作品内に作者を描くことで作品を内部で完結させ、
外側にいる作り手とは独立したものを完成させる、という意図があるのではと思いました。
作品と作り手を切り離すために、作り手が作品と「さよなら」して作品を作り手から「逃亡」させるために、「音楽の盗作をする男」という作者のような存在を作ったのかなと感じました。
それでもその独立した作品から、作曲者であるn-bunaさんの影を見ようとしてしまいます。それは『花に亡霊』を見ることに近いのかもしれません。
『花に亡霊』の「形に残るものが全てじゃないように」「歴史に残るものが全てじゃないから」という詞は、語らないことや、書かないこと、余白を大切にする気持ちを感じます。
亡霊はきっと、ない部分、余白を想像することで生まれるので、作品に余白があることによって、聴き手の中にも君が描かれていくのかなと思いました。
小説で「音楽の盗作をする男」が語っていたようにすべてのメロディが出尽くしていたとしても、オリジナリティが全てじゃない、と、この歌詞は言っているように感じます。
アルバム名の『盗作』に通じるところがあると思います。
アルバム内で、「花人局」が特に好きです。切ない詞ですが、suisさんの歌や曲調が淡々と感情を抑えている感じで、「明日にはきっと戻ってくる」からの、「貴方」が帰ってくる期待を捨てられない歌詞に心動かされます。