てぃくる 104 あれ?
自分の身の回りにあるものは変わらない。わたしたちは、無意識にそう思いながら毎日を過ごしています。でもわたしたちの思い込みとは関係なく、変化というのはいつでも訪れるわけで。
変化と思い込みのズレのせいで、変化した現況を目の前にしても気付かなかったり、必要以上に驚いたりするわけです。
ある日。緑一色のはずの森の中に、突然茶色や灰色の大きな斑点が出現します。あれー? 紅葉にはまだ早いよねー? なんだろう? 首を傾げる人が多いんです。
これ。典型的なナラ枯れです。
カシノナガキクイムシという小さな虫が、木を腐らせるカビを背負って木に侵入します。この虫が食べられるところはうんと限られているので、普通はこの虫が入ったからと言って枯れることはないはずなんですが、背負ってるカビの中に、しゃれにならない病原性を持つものがあり、虫が侵入したところを起点にあっという間に広がって木の通導組織を侵し、水の通導を止めてしまいます。
そうすると、どんな大木も一たまりもありません。まさに突然死。青々とした葉っぱがいっぱいに茂っていたのに、水を失った葉は茶や灰色に変色してぱりぱりになってしまい、そのままばったり枯れます。人間で言えば、心筋梗塞と言ったところでしょうか。
アカマツやクロマツの突然枯死をもたらすマツザイセンチュウ病では、病気を起こさせるマツノザイセンチュウが海外から持ち込まれました。外来の病気だったんです。
しかしナラ枯れを起こさせる虫と病原菌は、どちらももともと日本にいたもの。それが、急に被害を拡大させています。温暖化、森林管理の変化、キクイムシの天敵の減少、病原菌の強毒化、周期発生説……。いろんな仮説が出ていますがどれにも決め手はなく、有効な防除法もまだないので、被害は沈静化していません。
コナラは、本州の広い範囲で里山林の中心樹種になっています。かつては薪炭用にきちんと管理されていた林が燃料革命後に放置され、生えていた木が成長して大きくなってしまいました。
でも経緯を知らないわたしたちは、大きくなった状態の森が安定して存続すると思っています。だから、突然巨大な枯れ木が生じたことにびっくりしてしまうんです。
コナラの実、いわゆるドングリはクマ、イノシシ、げっ歯類などの動物の重要なエサですから、それが枯れてなくなる影響は植物だけにとどまりません。そういう面も心配なんですよね……。
もう一つの心配は、安全面です。先程述べたように、コナラはとても身近な樹木で、いわゆる雑木林には必ずあると言ってもいいでしょう。しかし、コナラを始めとするナラ・カシ類は材の比重がとても大きく、重い。
それが枯れてもろくなると、ちょっとした風で大枝が折れたり、台風でいきなり倒れたりします。枯れていても重いんですよ。いきなり頭上にコンクリートの塊や鉄骨が落ちてくるのと変わりません。危険ですので、枯れていることがはっきり分かる木には近づかないようにしてくださいね。
それと。コナラの枯れた木の周りに、真っ赤な炎のような形をしたキノコが生えることがあります。カエンタケと言うんですが、珍菌中の珍菌だったものがナラ枯れの蔓延に伴ってあちこちで普通に見られるようになりました。
カエンタケはしゃれにならない猛毒を持っています。もちろん口にしたら死に直結しますし、触っただけでも皮膚が炎症を起こします。こちらもどうかご用心くださいね。
これから秋が深まるとともに、ハイカーでなくても山に親しむ機会は増えると思います。その際、ご覧になっている森林が健康かどうか、そういう視点でも山を見ていただければ幸いです。
元気なコナラ。
でも、最初に掲示した枯れている木からいくらも離れていません。この木にも、害虫の到来とともにナラ枯れ被害が発生する可能性が……。
(2014-09-07)
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