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てぃくる 30 さんくゎ
花。
咲く時には誰もがその姿に見惚れて賞賛するのに、散る時には目を背けられる。
散った花にはまだ色が残っていて。姿もあって。でも、散っている。
花はしがみつかない。生きていることにしがみつかない。子孫を残すのは花弁ではなく、種子なのだから。
わたしたちは最初からそういうものよ。嘆きでも諦めでもなく、頑なに事実だけをその手にぎゅっと握り締めて。花は……散る。
枝にしがみつき、醜く朽ち果ててから落ちるものもあれば。まるで斬首されたかのように、すっぱりと切り離されるものもある。
だがいかなる散り方であっても、散花は元に戻らない。二度と元に戻ることは……ないのだ。
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「ねえ……」
「うん?」
「どんな……気分だった?」
「さあね。空を飛んでた時はふわっとして気持ち良かったかな」
「ふうん」
「君も空を飛べるんじゃないの?」
「どして?」
「だって、プロペラの形をしてるじゃん」
「……」
◇ ◇ ◇
彼女は頷けない。頷けば、首が折れて散ってしまうから。
彼女は地を這うもの。花はひっそりと地の底を照らす。散れば、ことりと墜ちるだけだ。解き放たれても、プロペラが回って空を飛ぶことはない。
散っても……空を巡ることはない。
(2013-06-10)