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てぃくる 744 たそがれ
「日が傾いたから赤っぽくなったんですかね」
「さあ。紅葉したせいかもしれんが、区別がつかんな」
「区別しなければいけませんか」
「いや、何がどうして赤くなっていても、誰も困らん」
「夜に真っ黒になってしまう方が困りますね」
「まあな。だが、その時には私らも真っ黒さ。やっぱり誰も困らんよ
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黄昏の中に、不用意に溜めてしまった嘆きを音にせずに吐き出す。
白い呼気が薄紅に染まった。
ぼんやりと色、形を得た私の吐息は、徐々に薄闇の中へ潜り込んでいく。
ざわつく梢の先に、いくつかの光点。
それらは黄昏に染まらない。
やがて夜の幕に、ぽつりと穴を開けるのだろう。
人の世の黄昏照らし寒の月
(2020-12-16)