てぃくる 110 ビロード
濃ワイン色のビロードの上に立つ。
全てを柔らかく受け止めるビロードの上にあって、固いのは僕だけだ。
「それなら、あなたも柔らかくなればいいじゃない」
出来ないね。それは、出来ない相談だよ。
「ふうん」
彼女は僕の手をふいっと振り払うように離し、そのまま前にぱたりと倒れ込んだ。
彼女の体を受け止め切れずに波のように揺らいだビロードは、すぐに凪いで。
……彼女と見分けが付かなくなった。
(2014-10-23)
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