てぃくる 919 虚実
「咲いてるの?」
「ううん。まだ咲いてない」
「咲いてないの?」
「満開だよ」
カシワバアジサイ
北米原産で、紅葉も楽しめるアジサイとして人気がありますね。
花は白だけですが、日本のアジサイのような半球状ではなく、穂状に咲きます。穂の根元から先に向かって開花していくので、同じ花房でも咲いているところとそうでないところがあるんですが……。実態が必ずしも見かけと一致しません。
上の二枚の画像は、実は同じ花房なんです。
一枚目が穂の先端近くで、まだ蕾が大半。
二枚目が基部に近いところで、まさに満開です。
でも、わたしたちの受ける印象は違う。一枚目が満開で、二枚目はすでに盛りを過ぎているように感じます。理由は言わずもがな。アジサイ類を特徴づける大きな装飾花が、萼を欠く小さな両性花と必ずしも同期しないから。画像の花では、装飾花が先に開き、後から両性花が開いていることがわかります。
両性花が開く頃には装飾花が傷み始めているので、盛りを過ぎているように見えますが、この植物にとって重要なのは結実できる両性花の方なんです。
◇ ◇ ◇
こういう外観と実態のズレは、わたしたちにもよく見られること。「終わった人」に見える当の本人が、実はすごく充実した日々を送っていることなんかざらにありますし、逆に誰もが羨む生活を送っていながら心が空っぽというケースも珍しくありません。
他者と関わらずに生きていくことができない以上、自分の虚実を一致させることは不可能です。実の部分は自分自身にしかわかりませんので、そこを虚に侵食されないようにしたいなあと。咲き誇るカシワバアジサイの小さな両性花を見て、そう思うのです。
紫陽花を活けて辺りに雨降らす
(2022-06-20)