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てぃくる 367 壊れる


 鬱蒼と茂る照葉樹林。頭上を隙間なく覆っていた樹冠の隙間から、少しだけ青空が覗いています。

 どこにでもある森の中の光景……そう思われたでしょうか? 実は、ここに隙間が出来たのは本当に久しぶりのこと。それまでは、ずっと光が漏れ落ちてこない場所だったんです。

 今年は台風の当たり年でした。あまり台風被害を受けてこなかったこの鎮守の森にも容赦なく強風が吹き荒れ、わたしの胴体ほどの太さがある大きな枝が根元から折れて林床に落ちました。当然、それらの枝葉が覆っていた空間には空きが出来るんです。

 わたしたちは被害を受けた森林を見て『壊れた』と判じるんですが、森の大きな損傷をずっと待ち続けている生物も多く存在します。森が壊れることは、彼らにとって大きなチャンスになるんです。

 照葉樹林は、一度かっちり出来上がると樹冠下に光を漏らさない暗い森林になります。光を受けられないと成長できない多くの植物にとって、樹下は死の空間。成長するどころか生き残ることも難しいので、下草すらろくに生えません。

 でも、チャンスは必ず来るんですよ。台風や火災、噴火、洪水……。既存の環境をぶっ壊してしまう天災は、同時に既存の秩序を強制的にデフォルトに戻し、独占者の横暴を許しません。

☆ ☆

 今という時間断面だけを見ていると、その時点にあるものが絶対秩序のように感じることがよくあります。でも、自然界は破壊と創造を数限りなく繰り返して今の姿になっています。
 破壊すらも秩序の一部であり。破壊し、破壊される我々も、その秩序の一部なのでしょう。

 光が漏れ落ちて来るようになった明るい隙間を見上げながら。同時に、自分の中の破壊と創造をぽつりと見つめます。

(2017-12-03)

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