てぃくる 15 燃してしまえばいい
春は移ろいの時。別れと出会いの狭間。
区切りを意識する季節でありながら、実際はその区切りが分かりにくくて、茫洋としています。だからこそ春は愁いを帯びていて、楽しさだけではなくけだるさも引きずってきます。
春の変化に乗じて、自分自身も変化させようとしたこと。その全てが実るわけではありません。失敗も、失恋も、別離も。ゆらゆらと立ち上る陽炎の中に紛れ込んで、いつまでも目の前をうろうろします。
あー、うっとうしい。
使い古しの心なら、さっさと燃してしまえばいいのに。
菜の花畑の中にぽつんと置かれた黒焦げのペール缶が、投げ出すようにそう言いました。
そうだね。でも、君の火はもう消えているだろう? 燃えているのは菜の花だけだよ?
誰かの焼け残った心が放り込まれたままのペール缶は。もう何も言いませんでした。
(2013-03-29)
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