てぃくる 1029 上前を跳ねる
まず、こいつをちょっと見ていただいて。
真っ白な植物。見ての通りで、葉緑素がありません。
タシロランと言います。
ネットの解説では半数以上のサイトで腐生植物と書かれていますが、厳密に言うと腐生(サプロファイト)ではありません。なぜなら、この植物には腐植を分解して自らの栄養として取り込む能力がないからです。
正確に言うと、菌従属栄養性植物(マイコトロフィック・プラント)になります。こやつらがどうやって生きているかというと、菌にたかって上前を跳ねているんです。
ランの仲間には、ラン菌という菌類と共生して菌と栄養交換することで生きているものがかなり多いのですが、交換ではなく一方的に菌に寄りかかって生きている無葉緑のランも結構あるんですよ。一番有名なのがツチアケビですね。なんと、樹木キラーとして悪名高いナラタケをだまくらかして逆に食ってしまうのですから。
タシロランのパトロンは、近年の研究でヒトヨタケの仲間だということが判明しています。ヒトヨタケは純然たる腐生菌ですから、タシロランはヒトヨタケが有機物を分解して得る稼ぎをこっそりちょろまかしているわけですね。
先に述べましたが、ランの仲間はいろいろな菌類と共生しているものが多く、その共生のバランスは必ずしも釣り合っていません。植物側に極端に有利な関係であれば、それは片利共生を通り越して、ほとんど寄生なんですよね。
ただ、誰かの上前をはねる生き方が賢いかどうかには疑問符がつきます。タシロランがたかれる菌は限られていて、その菌がいないところでは生育できないからです。
ちなみに。タシロランは梅雨時に照葉樹林の湿った林床でほんのひとときだけ花穂を上げ、あっという間に消えます。絶滅が危惧されている希少植物でもあります。
幽霊の如き花あり 足あれど
(2023-07-10)
Epiphanies by Ghost Flowers