てぃくる 800 佇む
幾重にも重なった葉の層に埋もれるようにして、山法師の花が咲いている。
いっぱい咲いているのにも関わらず、誰も目を向けようとする者はいない。確かに人に鑑賞されるために咲いているわけではないのだが、そこまでひっそり隠れるように咲かなくてもいいだろうと思う。
わずかな風で枝が揺れ、光が散り、隙間の形が変わって花が見え隠れする。それをじっと見つめているうちに、考えが変わった。
くっきり見えているものは変わりにくいが、そうでないものは変化する。実際の姿も印象も、だ。それは欠点ではなく、長所のはず。
明示するとイメージは固定される。私はそれをひどく嫌っていたはずなのに。人間というものは、なんと勝手な自己都合ばかりを押しつける存在なのだろう。
謝罪の代わりに苦笑を一つ風に流し、お詫びに少しばかり藪蚊に献血をして。樹陰からそっと離れる。
ぼり。ぼり。ぼり。ああ、かゆい。
沢音を僧衣に纏ひ山法師
(2021-06-17)