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てぃくる 313 樹下

「一つだけ。一つだけ聞かせてもらっていいですか?」
「……なんでしょう」
「なぜ。僕ではだめだったんですか?」
「言わなければいけませんか?」
「踏ん切りたいので」

 彼女は樹下に在り。
 濃く淡く変化し続ける木漏れ日をそっと見上げた。

「そうですね……」

 ざうっ。
 一陣の風が、青葉を激しく揺らす。
 千々に乱れた木漏れ日が、彼女を斑らに染め直した。

「もしあなたが、わたしをここから連れ出してくれたら。わたしは迷わずあなたの手を取ったでしょう」
「そうなんですか?」
「ええ。でも、あなたはここにいるわたしに恋をした。それなら、わたしはここから出られません」
「……」

 頑なに伏せられた彼女の目は、二度と僕を捉えることはなかった。

「さようなら」

(マンサクの若葉)


 彼は失意のうちに樹下を離れ、逃げるようにして走り去った。
 残されたわたしは、木下闇に隠すようにして繰り言をこぼした。


お地蔵さんをナンパするバカがどこにおる!
大概にせいっ!

☆ ☆

 お地蔵さんを勝手に持ち出したら泥棒です。
 てか、重くて持ってけへんと思うけど。

(2017-06-08)

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