てぃくる 447 店じまい
「もう店ぇ閉めるんか」
「ああ。日銭商売やさかいな」
「客ぅ来たんか」
「来ぃひんかったわ。しゃあない。また明日や」
「明日って。あんたは今日で終いやろ?」
「せや。花としてはな」
「……」
「何を残すのがええのんか、わいにはようわからへん」
「ああ」
「せやけど、毎晩店は開き、店が閉まる。それがわいらの商売や。ずうっとそうやってきたさかい、他には何もできひんねん」
「……因果やな」
「まあな。せやから、店じまいの時には後をきれいにとか、一切考えへん。それだけが、わいの意地やな」
カラスウリは夜に開花するので、きれいに開いた状態の花にはなかなかお目にかかれません。一日花ですが実際は一日も保たず、夕方から開き始めて翌朝にはもうしぼんでいます。
レース編みのように花弁の縁が繊細に切れ込んだ工芸品のような花弁。白い花の色とともに、夜にできるだけ花を大きく見せるための工夫かもしれませんね。
カラスウリの花は花筒がとても長いため、普通の昆虫は蜜腺に口が届かず、花粉を媒介することができません。
花筒の底にある蜜腺まで口が届くのは、夜行性でホバリングしながら蜜を吸える口器の長いスズメガの仲間。それらの蛾がいない環境だと、ほとんどの花は受粉できずに徒花で終わるのです。たくさん花が咲いてもなかなか実がならないとか、実の生り方にひどくむらがある場合は、スズメガがそのあたりにいないのでしょう。
さあ。今晩開くお店には、お客さんは来てくれるでしょうか。
(2018-08-15)