てぃくる 354 小さな噴水
夕闇迫る公園の片隅。
水飲み水栓のハンドルがゆるんでいるのでしょう。わずか数センチの小さな噴水が、差し掛かる夕陽の色を時折乗せてちょろちょろと吹き上げていました。
通りかかった小学生の男の子が一人。しばらくその小さな噴水を見つめていましたが、ハンドルを回して水を止めようとしました。
「あれ?」
ハンドルが空回りしてしまいます。
「こわれてる?」
さすがにどうしようもありません。男の子は困ったように小さな噴水を見つめます。その時突然男の子の後ろから声が。
「どないした?」
声をかけたのは杖をついたおじいさん。男の子は小さな噴水を指差します。
「これ、こわれてるの」
おじいさんが噴水を見て少しだけ笑いました。
「壊れてへんで」
「え」
「それえ、最初からそうなってるねん」
「どして?」
「鳥や猫はそれえ回せへんねや」
「あ……」
男の子は大きくうなずきました。
「そうだー!」
「せやろ?」
「うん!」
納得した男の子は、夕陽に向かってぱたぱたと走ります。
「ありがとー!」
「はっはっは」
男の子と入れ替わって小さな噴水を見つめていたおじいさんが、ぽつりとつぶやきました。
「それぇ回せへんのはわいもや」
(2017-11-03)
同じ曲ですが、トーンが全く異なりますね。
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