てぃくる 185 マレット
「ねえねえ、おじちゃん」
「なんだい?」
「なんでその棒の頭ンとこ、糸で巻いてあるの?」
「木のまんまだったら、当たった時に痛いだろ?」
「でも、その方がはっきりこつんて音するんじゃないの?」
「そういう音を出されたい?」
「絶対にイヤ!」
☆ ☆
ビブラフォンやマリンバの演奏に使われる、ばち。マレットと言います。
マレットが鍵盤に当たった時、棘のある衝撃音を丸めて柔らかいトーンを出せるように。ゴムや糸でくるまれたマレットの頭には、演奏者が望んでいる音を出すための工夫が凝らされています。
コトバっていうのもそうで、そのものずばりの表現がベストというわけでは必ずしもありません。よく奥歯にものが挟まったようなと言いますが、そうやって遠回しに気付きを促すのもコトバのマジックなんですよね。
木がむき出しの固いマレットで叩いて出す音。その鋭さが必要な時も確かにあるでしょう。でも、それで奏でるものが音楽ですらなくなってしまった時。コトバではなく、力が直接ぶつけられるようになってしまった時。
わたしたちは、壊れてしまったものを元に戻せないことが多いのです。
(2015-10-11)
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