てぃくる 480 静かな会話
「よう、松ぼっくり。おまえは生きてるのか?」
「いや、俺はもう枯れ果てている。殻だ」
「ふむ。枯れているのに愛されているんだな」
「枯れてはいるが、まだ朽ちてはいないからな」
「朽ちたらどうなるんだ?」
「松ぼっくりだとわからなくなるから、見捨てられる」
「それは……悲しいな」
「いや。いつまでも朽ちずにむくろを晒し続ける方が悲しい」
「なるほど」
「万年茸。おまえさんは生きてるのかい?」
「一応な。ただ、長持ちしそうに見えて一年も保たん」
「意外だな」
「からからに干し上げられると、長持ちするけどな」
「俺と同じで、殻だけだろ?」
「そう。縁起物だと言われるが、俺にとっては縁起でもない」
「ははは」
硬くて動かないもの同士の会話。
それは永劫に続くように見えて、ごく限られた期間にしか交わせない。
松笠は朽ちるまでに時間を要するが、万年茸はすぐぼろぼろに朽ちるからだ。
彼らよりもずっと朽ち果てやすいわたしが、なぜか永らえて。
朽ちつつある彼らを看取る。
会話を交わさず……いや、交わせずに。
氷雨かかり屋号の墨を削りゆく
(2018-11-28)
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