絵本担当と出版社⑤
売上データの活用
いつ、誰が、何を、どのくらい買ったか、
顧客の全ての消費行動をデータ化したposデータ。
それらを分析し、次の仕入れや販売に活かすのは、小売業の基本です。
書店も小売業なので、スーパーやコンビニなどの業種と同様、データに基づき業務を行います。
ただ、生鮮や食品、服飾などと違い、
『本』は、それ自体がデータの塊ともいえるし、販売の形態などから、データ分析と相容れないような印象があるかもしれません。
実際には、書店業務はデータが頼りともいえるくらい、それらを活用しています。
私が勤務している系列の書店の事情しか分かりませんが、他の大型書店でも状況は同じではないかと思います。
お客様の問い合わせがあれば、まず書誌データで在庫状況や内容をチェック。
書籍が購入されれば、お客様の年齢層、書籍の内容、販売金額、冊数のデータがすぐに集計され、データ化されます。
当日売上データを見ながら「今日はどんな本が何時に売れたか」を確認。
近隣エリア10店舗の売上データをチェックしながら売り方を変えたり、色々試してみることもあります。
人気本の売上状況は、単品売上実績で全国の系列店舗の中での自店の位置を把握。
フェアを仕掛けるときは、前年度の同様なフェアのデータを確認します。
月終わりには、児童書全体のデータと児童書各担当の売上データを全てチェック。昨年度との比較をしたり、売れ筋の書籍を共有したり、全体の反省をして、翌月の戦略を練ります。
このように、データを最大限活用しながら売上に繋がるよう、日々試行錯誤しています。
時には自分が考えた仕掛けがあたり、売上データに反映されることがあったり、棚をほめてくれるお客様の話が聞こえてきたりする時があります。
書店員として、仕事の醍醐味を感じられる瞬間です。
お客様がお店に求めているものとかけ離れていかないように、お客様から引き出せるデータに基づいて店を作ることを最優先にしていかなければ、といつも気を付けています。
上記で例に挙げたのは系列書店で集計したデータですが、
その他の活用出来るデータとして、出版社の営業の人達から提供されるものもあります。
出版社に対してopenになっている全国の書店のデータから、営業担当の人が自分の出版社のものだけを抽出し、年度別、月別、カテゴリー別、アイテム別などの詳細なデータをまとめてくれるのです。
出版社にとってはあくまで書店から注文を取るためのツールなのかと思いますが、書店側にも役立つデータなのでありがたいです。
ただ、その中で一つだけ、私がいらないと思っているデータがあります。
それは各出版社が全国の書店のopenデータを集計し、書店の順位をつけているデータです。
大手の出版社の営業の方たちが持ってくる事が多いのですが、沖縄から北海道まで、全国の書店のカテゴリー別の売上順位をつけてくれるのです。
「今、おたくの書店が児童書の〇〇の売上、全国で何位です」というような感じです。
この全国の売上順位は、一見重要に見えますが、書店側にとっては活用法のないデータです。
全国に児童書を取り扱っている書店は何千、何万店舗もあると思いますが、地方によって、立地によって、店舗の形態によって客層や販売条件はそれぞれ異なります。
例えば、首都圏の都市型大型書店と、近郊の地域密着のチェーン書店を同列にし、金額や、冊数の大きさに従って順位をつけても、客層や店舗形態など基礎とすべきデータが両者で全く異なるので、比べたり、順位をつけることにあまり意味はないのです。
順位付けをするなら、これら全ての条件を平均化する必要があります。
それをせずに各店の売上金額や冊数だけ単純に比較しても、信頼できる正確な順位とは言えないと私は思っています。
営業の人達が私が担当している書籍の良い順位のデータを見せてくれることがたまにあります。
一応嬉しがりますが、あまり興味を持てないし、『実は意味ないのになぁ』と思いながら聞いています。
私が見てみたいと思うのは、
自分の店と同じような立地条件や店舗形態の、全国に散らばっている似たような書店の店舗の売上データです。
また、全国の絵本が好きな人たちが頑張って経営している小さな絵本専門店でどんな本が売れているのかとか。
こんなデータを用意してもらえたら、色々楽しい分析ができそうです。
一方、全国売上順位のデータを上手く活用している出版社も中にはあります。
但し、それはあくまで出版社側にとってのうまい活用で、書店にとってはあまり嬉しくない事例ですが。
ある絵本メインの出版社は、年度ごとに、
その出版社の全ての書籍の売上冊数を集計しその結果が全国で200位までに入った書店に、
【特約店】
として優先的な条件を与えると決めています。
そして、何ヶ月か毎に書店宛に全国の順位データを送ってきます。
その順位は、あくまで売上冊数のみに基づいており、立地や店舗規模などは全く考慮されません。
【特約店】になると様々な特典がうけられるため、書店にとってはお客様が求めるような販売をするためには必須な訳です。
しかし、一方で、
“特約店に残るためにあと何冊売らなければいけない“
と数字が突きつけられてしまいます。
年度末に最終的な自分の店舗の順位が決まるため、売上が足りないときはわざわざその出版社のフェアを仕掛けたり、目立つ所に置くなど、したくもない努力を強いられます。
この方式をとっているのは、おそらくその出版社にも相応の理由があるのでしょう。
児童書の良書を多数発行している出版社なので、自分達が作った本のクオリティを保つための方策なのかもしれません。また、お客様の利益のためなのかも。
ハッキリした理由は私にはよくわかりませんが。
ただ、書店としては、このような方式を取られると、販売していく上で非常にストレスを受けます。
自分達の出版社の本をもっと売れ!とおしりを叩かれているような感じと言いますか…。
これはその出版社が書店のことをどのように捉えているか、その考え方が透けて見えるようなやり方でもあると感じます。
出版社が書店に自分達の本を売らせてあげているのか、
それとも書店が出版社の本を売ってあげているのか、
それぞれの視点によって、考え方が違ってくるものだなと感じています。
理想的には、
「書店はそれぞれの出版社の書籍を売らせてもらっている」と感じ、
出版社は「自分達の本を売ってもらっている」と感じられる
状況なのでしょうが、なかなかそうはいかないようです。
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