絵本担当と出版社⑥
絵本のゲラ
出版社から、発売前の絵本原稿のコピーがお店に送られてくる事があります。
いわゆる『校正刷り』=『ゲラ刷り』というもので、印刷·製本前の見本のようなもの。
絵本の形態のものもあれば、色指定もまだ終わっていないようなコピー用紙のゲラ刷りもあり、形は様々です。
送ってくるのはお店の担当営業の方がほとんどですが、中には編集者の名前で送られてくるものもあります。
「今度〇〇という絵本を出版する予定なのですが、読んだ感想を書いてくれませんか」
というお願いの手紙が入っていることが多く、ただ読んでくださいということはほとんどありません。当たり前ですが。
こういう場合、一応全部の原稿の内容に目は通します。
以前は感想を送っていました。
しかし、今はほぼ送っていません。
その理由の一つは単純に読んでいる時間がないから。
箱開け、品出し、接客、レジ業務、発注作業、フェア展開、計画立案、営業対応その他諸々、短い勤務時間でやらなければならない事は山のようにあり、座るのはほぼ休憩の30分だけという日がほとんど。
そんな中で一人だけゲラ刷りをじっくり読んで感想まで書いている時間などありません。
なので、以前はゲラ刷りを持ち帰って家で読み、感想を書いて出版社に送っていました。
しかし、今はそこまでしてやる事はないなと感じるようになりやめました。
それは、以下の二つ目の理由から。
ほとんどの出版社は、感想を送るとHPやSNSなどでお店の名前入りで私の書いた感想を要約して紹介します。
中には感想の文面を店内掲示用のPOPに印刷してお店に送ってくれたりすることもあります。
ただ、それと引き換えに、とは穿ち過ぎかもしれませんが、該当の絵本を、新刊としては多いなと思ってしまう冊数分入荷するようお願いされる事が多々あるのです。
大抵このような事を言われるのは、営業の方ではなく編集の方から。
この場合、内容的に優れており、書店として売りあげも取れそうだなと思える絵本だったら、ある程度の冊数は発注します。
一番困るのは、いち読者として絵も内容も素晴らしいと感じても、
書店員の視点から見て売上を取るとなると「難しいな」と判断する絵本の場合。
以前も書きましたが、書店ではほとんどの新刊絵本は消耗品として扱われているという現実があります。
いずれ返品にするにしても、返品には冊数分の経費がかかるし、置いておくにしても在庫率と場所を圧迫します。
そのため、内容が素晴らしいと思えても、売れないなと思われる新刊絵本を大量に入荷する事には躊躇してしまうのです。
編集の方達は自分達の絵本に自信を持っているので、
「1ヶ月位、目立つ場所でテーブル展開してくれませんか」
とか
「あと10冊位、平積で置いてくれませんか」
などと言ってきます。
しかし、書店で、新刊絵本でこの様な売り方をするのは、既刊本がめちゃくちゃ売れているシリーズの新刊本か、本部が大量発注した、大手出版社が力を入れているの新刊絵本のみ。
なので、上記のような事をサラッと言われると、こちらとしては「うーん…」と唸るしかない。
編集者は自分達が心血を注いで作った絵本だということもあり、売り込みにより熱心になるのでしょう。
営業の人相手なら私もまだ断りやすいのですが、編集者のように、その絵本をいちから作り上げた人に対して、売上優先の書店の実態や大手出版社優遇のリアルな事情を伝えるのは、やはり気が引けてしまいます。
書店員としての私の甘さでもあるのですが。
結局、10冊単位とかで、そのような絵本の新刊を入荷する事になる…。
こんな事を繰り返して、いっその事ゲラ刷りの感想を送らなければよいのだという結論に至りました。
無理な売り込みがなければ、私は絵本のゲラ刷りを読む事も、その感想を送る事も、やぶさかではありません。
世の中に出る前の絵本を読める楽しさもあるし、その絵本を作った人達に自分の感想を伝えられるなんてとても贅沢な事だなと思います。本当はゲラ読みは好きなのです。
いつも絵本のゲラ刷りが送られてくる度に「何とかならないものかなぁ」
と思っています。