2元論の海の中で

TV・新聞系のマスメディアでは「世紀の悪魔プーチン」一色。世の中、そんな判りやすい2元論で説明できる訳ないと思っている人も、きっと多いはず。

だから、「信憑性はわからない」ということにかけてはメジャーメディアと同じだ、とわきまえることができる限り、洪水のようにあふれる一色報道のカウンターに接する機会は重要だと思う。


マリウポリの惨状


一昨日の夜、久しぶりにNHK7時のニュースを見て愕然とした。ウクライナ東部のマリウポリが壊滅したという空撮映像が流されていた
まさにディストピア映画に出てくるような映像・・・。
ネットで裏を取ろうと検索してみると、NHKで使われていた映像はウクライナ東部の極右軍事組織、アゾフ大隊がドローンで撮影したモノであることが判った。

アゾフ大隊は少し前に調べてみたことがある。今回独立を宣言した州のひとつであるウクライナ東部ドネツク州に隣接するドニプロペトロ-ウシク州の元知事イーゴリ・コロモイスキー(ウクライナ最大の産業・金融グループPrivat の創設者)が私的に持つ傭兵組織だったらしい。この部隊の旗はハーケンクロイツでヘルメットにもハーケンクロイツが描かれているという。

ウクライナ東部の独立派親ロシア勢力と戦う民兵組織であり、2014 年の騒乱下での虐殺事件やその後の東部ドンパスでの戦闘に参加していたらしい。そしてこの部隊はいまやウクライナ内務省管轄の国家警備隊に昇格しているという。

インド系カナダ人の運営するニューデリーの独立系ニュースサイト"The EurAsian Times"の記事にも以下のような記述がある。

Azov is a far-right all-volunteer infantry military regiment accused of harboring neo-Nazi and white supremacist ideology, reported Al Jazeera. They first fought with the Ukrainian army against pro-Russian separatists in the country’s east in 2014, and have subsequently been integrated into the regular armed forces.
私訳 アルジャジーラは、アゾフ大隊がネオナチと白人至上主義を標榜する極右の民兵組織連隊として告発された、と伝えた。当初彼らは2014年のウクライナ東部における親ロシア分離主義者との戦いにウクライナ軍と共に参戦し、その後通常の軍隊に統合された。

このサイトには、アゾフのエンブレムが描かれた旗を中心にして右にハーケンクロイツ、左にNATO軍旗が掲げられた写真が掲載されている。

中央がアゾフ大隊のエンブレム、左がNATO旗、右が・・・。


記事ではロシアがチェチェン紛争で制圧したイスラム教徒をシリアやジョージア、そして今回のウクライナに送り、アゾフ大隊と戦わせていたとも記されている。
そのイスラム教徒を殺害するためだけでなく、侮辱するためにアゾフの兵隊は銃弾の潤滑油に「豚の油」を使っている(!)・・・というのが記事の見出しなのだ。

そしてなんと日本の公安調査庁もアゾフ大隊については「ネオナチ組織」として認定している
その日本のマスメディアで、いったいなぜ、そうしたおかしな軍隊のことを知る機会がないのだろうか?NHKは映像を流すときに、そうした組織提供のものだと注釈をつけるくらいはするべきなのではないのだろうか。

さて、アゾフ大隊はマリウポリを拠点にしている。そこを徹底的にたたくため、ロシア軍が無差別攻撃をしたのだろうか・・・。そういえば、先週マリウポリからの避難回廊がようやく開通したとの報道もあった。

一方、ウクライナ側のアゾフ大隊や民兵組織は、民間の建物を拠点にロシア軍を攻撃する”人間の盾”作戦を行っているとの情報も以前からあった。

ここでは(ソースは不明ながら)マリウポリから脱出した人の肉声をとらえたビデオを紹介したい。(オリジナルは@Tamama0306さんのtwitter)

<ビデオ中の証言内容>

  • 「ロシア軍のおかげで脱出できた」

  • 「ウクライナ軍が撃ってきた、人道回廊を使って脱出しないように言われた。ウクライナ軍は我々を人間の盾として使い続けようとしたんだ」

  • 「ウクライナ軍は人道回廊を使った避難に何も協力してくれなかった」

  • 「アゾフは逃げようとした人々を処刑しやがった、バスごと皆殺しにしたんだ」

  • 「ウクライナ軍が住宅地の中に陣取った」

  • 「ドネツクの兵士が家の中なら我々を引き摺り出して逃げるように言ってくれた」

  • 「私たちはウ軍の人間の盾にされたがロシア軍のおかげで避難できた」

  • 「窓からウ軍の装備が見えるんです、自走式ロケット砲とかね」

  • 「私たちはまるで大砲の餌食でした、彼らは住宅地の庭から反撃していた」

  • 「自信を持って言えますが、被害の85%はアゾフ大隊によるものです」


このビデオで証言されていることが事実なのか、はたして人間の盾作戦のようなものがあったのかどうか現時点では「本当のところは判らない」とするしかない。
しかし、もしナチの旗を掲げている軍隊が実在しているとすれば、敵対民族を盾にすることは十分にありうるだろうとは感じる。
もしそうであるすれば、廃墟と失われた生活、そして命の責任は、ロシアだけに帰するものではない。むしろ・・・だろう。

少なくとも、これらの文書やビデオはその「可能性」があることを教えてくれる。世の中、そう簡単には判らないのだ。


アメリカのマッチポンプ?


2014年2月のこと。ウクライナでは反政府運動が盛り上がり、多くの死者を出す暴動に発展した結果、親ロシア派のヤヌコヴィッチ政権が倒れ、親欧米派のポロシェンコ政権が誕生した。

その騒乱直前の1月末、オバマ政権国務省のヴィクトリア・ヌーランド米国国務次官補(欧州・ユーラシア担当)とジェフリー・ピアット駐ウクライナ米国大使は、ヤヌコヴィッチが倒れた後のウクライナ政府中枢人事について協議をしていた。約1週間後その電話音声の録音がロシア語字幕付きでYoutubeに暴露される。録音中ヌーランドは「(平和ボケした)EUはクソだ!」と言い放ってその後EUに謝罪するはめになったという。
(Chromeブラウザだと、上記リンクで記載ヶ所に飛びます)

実際に新政権の人事はそのとおりになった。
彼女は、直接ウクライナに赴いて反政府デモの参加者にキャンディーを配るなど、デモメンバーを激励したりもしている。アメリカの高級外交官にしては「ほほえましい」気もするが、立場と場所、相手を考えれば穏やかな気持ちではいられない。まして反政府運動が暴動まで発展しようとしている直前、その国の政権人事について他国の政府高官が打ち合わせるなんてこと、トンデモな話だがこれがこの世界の現実なのかもしれない。

それから7年後に発足したバイデン政権。彼女は晴れて国務次官に昇進し外交の現場に返り咲いた。そして今、ウクライナへのロシア侵攻に、世界中の人々が心を傷めているのだ。

上記URLにはこのほか、騒乱の発端が反ヤヌコヴィッチ側の自作自演による発砲事件が発端だったとのエストニア外務大臣の証言ビデオの存在や、新政府の大臣ポストにいわゆる「ネオナチ」として知られていた極右の党の幹部が次々に任命されたことが紹介されている。

気のせいかもしれないが、トランプが(とりあえず)去り、バイデンになってからマジで戦争っぽい雰囲気がでてきたのではないだろうか。

  • バイデン政権発足すぐに中国の台湾武力進攻がとりざた。それと前後して、なつかしやアーミテージらネオコンが台湾訪問。

  • ISがアフガンでなぜか復活。

  • 一時おとなしかった北朝鮮がここにきてやたらミサイルを連発。

  • そして今回のウクライナ

ウクライナの民族間の緊張はかなり昔からあったのかもしれない。ロシアも隣国に自国寄りの政権を作るために「いろいろ」やっていたかもしれない。しかし、少なくとも2014年以降現在に至るまで、民族自決の「西側共通の価値観」に背くべく、アメリカもいろいろ工作していた疑いは強い。
仮想敵国を設定しその隣国を自国寄りの不安定な状態に置こうとするのは、覇権国の常套手段なのだ。

そして今現在、ウクライナ危機に対応しているのはリベラルな印象をまとったアメリカ民主党。目的はよく言われる軍産複合体の利権なのだろうか?
ちなみに、過去アフガニスタンでNATOと共に仕事をした東京外語大の伊勢崎賢治氏は、今回のロシア軍ウクライナ侵攻を「NATOの自分探しの結果だ」とある意味、言い切っている。

戦争を防ぐ気がなかった疑惑


プーチンは東部の自治獲得とともにウクライナのNATO加盟阻止を侵攻理由にしている。


1990年、東西ドイツ統一にあたってアメリカのベーカー国務長官(当時)がソ連のゴルバチョフ書記長(当時)に「NATOは今後東側には1インチたりとも拡大しない」と約束したという話がある。だとすれば、「NATOはどの国でも希望すれば加入できる」とする今のアメリカは2枚舌ということになる。しかし、どうもこれは口約束だけで文書としては残されていない、というのが本当のようだ。

90年代以降、この約束に反してポーランドやチェコ、バルト三国など旧ソ連地域がNATOに続々と加入している。ロシアの首脳はこのことについてフラストレーションをためていたのは事実らしい。そしてモスクワとウクライナーロシア国境は400kmしか離れていない。
元外務省情報局長の孫崎享氏はそのウクライナがNATOに加盟し中距離・短距離弾道ミサイルや巡航ミサイルが配備されることはロシアにとって認めがたいことだろうという。昔、核戦争の一歩手前まで行ったというキューバ危機の逆張りだ。

更に孫崎氏は今回のロシアのウクライナ侵攻について、アメリカ・ウクライナサイドはロシアに今回の侵攻を思いとどまらせるための十分な手段をもっていたという考えを述べている 。具体的には次の2点。

  1. カナダ政府が英語とフランス語の2言語を公用語としているのと同様に、ウクライナ政府もドンバスでウクライナ語とロシア語2言語を公用語として認めること。

  2. ウクライナがNATOに加盟しなければならない絶対的理由はない。この問題は棚上げにすること。

2014年のマイダン革命後にできた親米政権は、ドンバス(ウクライナ東部ドネツク州とルガンスク州、ロシア語を話す市民が大半)の自治権を奪い、ウクライナ化を図った。学校教育がウクライナ語に統一され、ウクライナ語を話せなければ公職につけなくなったという。
 
色々考え方はあるだろう。しかし、「これ以上絶対に血を流させない」とすれば、少なくともとりうる選択肢だったのではないか。とすれば今、ウクライナで起きている苦難の責任は極悪キャラのプーチンにだけにあるということにはならない。

NATOについてロシアの要求を真っ向から取り合わなかったのが、今回の侵攻の引き金だ。アメリカがそのままの姿勢であるとすれば、停戦は難しく思える。

ちなみに前出の伊勢崎氏は、同じビデオの中でバイデンがプーチンの耳に聞こえるように「ウクライナのNATO加盟には興味がない」と呟けばロシアは停戦を決断できる、と言っているのだが・・・。

さて、2月23日のウクライナのゼレンスキー大統領の国会演説に反対した政党は「れいわ新選組」しかいなかった。そんな彼らの存在は100年近く前に始まった15年戦争の時代よりは少しは進歩してるかも・・・と思わせてくれるものだった。
れいわ新選組の「国際紛争を解決する手段として武力の行使と威嚇を永久に放棄した日本の行うべきは、ロシアとウクライナどちらの側にも立たず、あくまで中立の立場から今回の戦争の即時停戦を呼びかけ和平交渉のテーブルを提供することである。」とする今回の声明、自分は全面的に賛成だ。
しかし、現実の日本政府の対応は相変わらず「ポチ」といわれても仕方のないものになっている・・・と思う。

2月24日に戦争が始まったわけではない


ところで、ウクライナではあの2014年以来内戦状態だった。戦争は今に始まったわけではないのだ。昨年2021 年4 月付のBBC の記事では「(内戦により)これまでに推定1 万4000 人が死亡している。」とされている

また、「ウクライナ・オン・ファイアー」を制作したオリバーストーン監督によれば1万6000人が亡くなっている

とすれば自分たちが今、心を傷めているのだとすれば、なぜなのだろうか?

さて、改めてタマホイさんのtweetを張り付ける。
なんと、ノーベル平和賞を受賞し今回ウクライナの停戦も呼び掛けている、エチオピアのアビィ首相による同国北部ティグレ州民間人へのジェノサイドにより、推定50万人が亡くなったという。そういえば、オバマもノーベル受賞者だったな。

自分はまったく知らなかったし、関心をもとうとしなかった。できることは、知ることを含めて、もともと限られているのが事実だとしても。


(了)

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