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盲目の男(超短篇小説)

真っ暗な部屋に盲目の男が座っている。
書斎も兼ねている寝室のベッドに身動きひとつせずに男は座っている。
目の見えない人は他の感覚が優れるというが、男は特に鋭い聴覚を持っていた。
男の見えない視線の先では、黒い蜘蛛が壁を這っている。
真っ暗な部屋では目の見える人でさえ黒蜘蛛を見つけることはできないだろう。しかし、男の耳には蜘蛛の足が壁を這う音が聞こえている。蜘蛛はときどき動きを止める。男は聴覚を研ぎ澄ませる。すると、蜘蛛の口を開閉する音が聞こえてきた。
盲目の男はただ蜘蛛の発する音だけに注意を向けている。男には他にするべきことなど何もなかったから。
あと3時間で朝日が昇るだろう。しかし、暗幕で蔽われた窓から光が入ることはない。
盲目の男は蜘蛛の動きだけを耳で追っている。

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