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名画『モナ・リザ』に“神の子羊”と“天使の翼”を見た経緯と考察 #22
#22 レオナルドの最後の絵画について
晩年のレオナルド・ダ・ヴィンチは、『モナ・リザ』、『聖アンナと聖母子』、『洗礼者聖ヨハネ』の3作品を手放さなかったそうです(図102参照)。その理由について考察してみたいと思います。
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先ず『聖アンナと聖母子』についてですが、この絵には、聖アンナ(聖母マリアの母親)、聖母マリア、幼子のイエス・キリスト、及び子羊が描かれています。聖アンナの膝の上に聖母マリアが座っており、聖母マリアがイエス・キリストを抱きかかえようとしますが、イエス・キリストは子羊に乗ろうとしています。
この絵の構成にはかなり無理があるような気がします。このままで解釈しようとすると、聖アンナの膝の上には、聖母マリア、イエス・キリスト、子羊が乗っかることになってしまうためです。それは明らかに不自然だと思います。
完璧主義者であるレオナルドがそのような不自然な構成を敢えて採用するということは、この絵にもまたなんらかのメッセージが隠されているような気がしてなりません。
『聖アンナと聖母子』は、聖アンナ、聖母マリア、イエス・キリスト、子羊が下から順に重なるように描かれていると解釈した場合、その構成そのものが、『モナ・リザ』の謎を解くヒントになっているように思われます。先に述べたとおり、『モナ・リザ』にも聖母マリアとイエス・キリストを含む複数のモデルが重なるように描かれており、一番上には天使の翼と神の子羊が描かれています。
つまり、この『聖アンナと聖母子』の絵は、『モナ・リザ』にも複数のモデルが重なって描かれていることを伝えようとしているのではないでしょうか。
次に、『洗礼者聖ヨハネ』についてですが、洗礼者聖ヨハネは、キリスト教において、イエスの先駆者として特別の尊崇を受けている人物です。洗礼者聖ヨハネは、ヤン・ファン・エイクの『ヘントの祭壇画』にも描かれています。『ヘントの祭壇画』の上段中央の三枚のパネルのうち、向かって右側のパネルに洗礼者聖ヨハネが描かれています。『ヘントの祭壇画』の上段中央の三枚のパネルは、中央にイエス・キリスト、その左右に聖母マリアと洗礼者ヨハネを配する伝統的な構図(デイシス)をとっています。
一方『モナ・リザ』には、成人のイエス・キリストと聖母マリアが描かれていますが、洗礼者聖ヨハネは描かれておらず、デイシスの構成をとっていません。従って、このデイシスを構成するために、『モナ・リザ』とは別に『洗礼者聖ヨハネ』を描く必要があったと考えることもできます。
しかし、『洗礼者聖ヨハネ』は、それとは別の目的のために描かれたかもしれません。実は、『洗礼者聖ヨハネ』の絵を初めて見たとき、なぜ背景が真っ黒なのだろうと思っていたのです。そしてあらためて『モナ・リザ』を見てみると、下端部分が黒を基調として描かれていることに気が付きました。もしかしてと思った私は、『モナ・リザ』の下に『洗礼者聖ヨハネ』を持ってきてつなげてみました。
すると、洗礼者聖ヨハネの右手が指さす方向には、『モナ・リザ』の左腕に描かれている「青年のイエス・キリスト」と、「神の子羊」が描かれた「天使の翼」とがあります。そして、洗礼者聖ヨハネの右手は、「見よ。神の小羊だ」を意味するものです(図103及び図104参照)。
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つまり、『洗礼者聖ヨハネ』の絵は、「イエス・キリスト(神の子羊)」が『モナ・リザ』のどこに描かれているかを教示する役割を担っているのだと考えられます。
結論としては、『聖アンナと聖母子』と『洗礼者聖ヨハネ』は、『モナ・リザ』に秘められた謎を解く鍵としての役割があり、そのためにレオナルドは、この3枚の絵を大事に持っていたのだと思われます。