名画『モナ・リザ』に“神の子羊”と“天使の翼”を見た経緯と考察 #15
#15 鏡像のイエス(その2)-ケーキ投げつけ事件-
現地時間の2022年5月29日、フランス・パリのルーヴル美術館で、『モナ・リザ』に向かって、車椅子に乗り高齢女性を装った男性がケーキを投げつけるという事件が発生しました(図59参照)。
勿論、『モナ・リザ』は強化ガラスで保護されているため損傷はなかったようですが、白いクリームが強化ガラスにべっとりとついていました。
私は、ユーチューブでそのときの様子を見ていました。画面上では、モナ・リザの左腕全体と胸の一部が白いクリームで塗りつぶされているように見えました。
ああ、なんてことを、あそこには天使の翼が描かれているのに。
そんな風に思いながら、私は、以前プリントアウトした『モナ・リザ』のコピーを見ていました。そのとき、奇妙なことに気が付いたのです。
あれっ? これってもしかして、顔?
『モナ・リザ』の左腕の上腕部分に、人の顔が描かれているように見えたのです。それは、“瞳の大きな美少年風の人物”で、その顔の左半分が描かれているようでした(図60、図61参照)。
また丁度手元には、『モナ・リザ』の反転画像をプリントアウトしたものもありました。それは、“曲がりくねった道”、即ち“Sの鏡文字”を反転させたときのものでした。私は、その画像の腕の部分、つまり反転しているため『モナ・リザ』の右腕の上腕となる部分も見てみました(図62、図63参照)。
すると、不思議なことに、それは青年の顔には見えませんでした。“人間の骸骨”のように見えたのです。もちろんこれは単なる目の錯覚かもしれません。しかし、もしかしてレオナルドは敢えてそう見えるように描いているのかも、とも考えました(図64参照)。
これまでの解釈によれば、『モナ・リザ』の左腕は、聖母マリアの左腕ということになり、画像反転した『モナ・リザ』の右腕は、聖母マリアの右腕ということになります。そこで、聖母マリアの両腕のそれぞれとイエス・キリストとの関係についてネットで調べてみました。
ネットで見つけることのできたレオナルドが描いた聖母子像は、『ブノワの聖母』、『カーネーションの聖母』、『リッタの聖母』及び『糸巻きの聖母』の4作品でした。これらの作品のうち、『ブノワの聖母』、『カーネーションの聖母』、『リッタの聖母』の聖母マリアは、両手でイエス・キリストを支えているように見えます。しかし、『糸巻きの聖母』だけは左腕でイエス・キリストを支えているように見えます(図65参照)。
『糸巻きの聖母』は、1501年頃の作品で、十字架を思わせる糸巻き棒に、幼子イエスは夢中になっており、その様子を聖母マリアが心配そうに見守っています。聖母マリアは、後に磔刑(たっけい)となるイエスの過酷な運命を察している、そういう意味の絵だそうです。
一方、私がネットで調べた限りにおいて、レオナルドが描いた絵の中に、聖母マリアがイエス・キリストを右腕で抱いている様子を描いたものを見つけることはできませんでした。
しかし、聖母子像のことを調べているうちに、レオナルドと同時期に活躍したミケランジェロの作品が検索結果に上がってきました。その作品とは、『サン・ピエトロのピエタ』です。
『サン・ピエトロのピエタ』は、磔刑に処されたのちに十字架から降ろされたイエス・キリストと、その亡骸を腕に抱く聖母マリアをモチーフとした彫刻です。この作品は、1498年~1500年に作製されたものであり、ミケランジェロの数ある彫刻の中でもダビデ像と並ぶ最高傑作なのだそうです。
この『サン・ピエトロのピエタ』における聖母マリアは、イエス・キリストの亡骸を右腕で支えています。
つまり、『糸巻きの聖母』では、幼少のイエス・キリストが聖母マリアの左腕に抱かれており、『サン・ピエトロのピエタ』では、磔刑に処された後のイエス・キリストの亡骸が聖母マリアの右腕に抱かれています。
『糸巻きの聖母』と『サン・ピエトロのピエタ』はほぼ同じ時期に製作されています。そして、レオナルドはミケランジェロのこの素晴らしい作品についてもちろん知っていたと考えられます。
これらのことを合わせて考えると、『モナ・リザ』の左腕に描かれている青年は生前のイエス・キリストであり、鏡像の『モナ・リザ』の右腕に描かれているのは、磔刑後のイエス・キリストを示しているのかもしれません(図66参照)。
以上をまとめると、まず、『モナ・リザ』には、イエス・キリストの顔の右半分(モナ・リザの顔の右半分)だけでなく、その顔の左半分(モナ・リザの左腕)の両方が描かれています。ただしおそらく、それら顔半分の互いの年齢は異なると思われます。そして、『モナ・リザ』の左腕の部分は天使の翼の一部を構成していますので、イエス・キリストの顔の左半分が、その部分に何かが描かれていること、即ち『天使の翼』が描かれていることのヒントになっていると思われます。