障害者雇用の「障害」~説明会編~
この記事は、「障害者雇用の「障害」」の説明会編です。
説明会。企業に応募するにあたって、絶対に参加しなければならないもの。なのに、そこにも「障害」がある。
聞くための障害、見るための障害、知るための障害。近年ではUDトークや手話通訳等がオンラインでも活用され、「聞く」という面では解消されつつある印象がある。しかし一方で、まだ改善されていないと感じる部分がある。
また、有名な謎コラ(コラージュなのか?)でこんな名台詞がある。
「身体が障害者でも、心まで障害者になるな!」
僕はそれを、まさか様々な種の障害を抱えた人が揃う障害者雇用の説明会の場で味わうことになるとは予想だにしていないかった。ちなみに僕の障害は心――精神にも関わる障害である。この時点で詰みじゃないか。
そこで、「説明会」で感じた障害を書き連ねていこうと思う。
共通編
「精神障害だろうが発達障害だろうが、仕事量や内容を調節いたしません」
大元の記事にも書いたが、この言葉には大変驚かされた。仕事量を調節しない、内容も調節しない、ということは、必然的に通院のみが必要な内部障害者、足だけに障害を抱える人(場合によっては車いすユーザーもNG)、精神障害を抱えていない(あるいは抱えていてもうつ状態ではない)ASDやADHDに限られてくる、ということだ。
この言葉で振り落とされる障害者は以下の通り。
書字障害、手の運動機能障害等で、作業がどうしても遅くなってしまう人
完全な盲や聾等で特定の仕事ができない人
車椅子で移動が困難だが、配慮が難しいケース(ex.通路が狭く移動が困難だが、机は固定されていて動かせない)
精神疾患や病弱のため、ある程度の休息をとらないと病状が悪化する、または働ける時間に限度のある人
ADHD、ASD等の過集中で疲弊しやすい人
ちなみに、「業務上必要な配慮はする」とのことなので、道具の提供等可能な配慮はしてくれるらしい。
ただ、上記に挙げたような人を排除したいのであれば、最初から障害を指定して「君たちは要りません」と明言してほしい。暗に排除するやり方は、障害者から見れば健常者ならではの卑怯な方法であるとしか言いようがない。
それとも法や憲法における差別の禁止が怖いのか?または、罰金を払うのが面倒?お財布事情?就活生はそんなこと知ったこっちゃない、業務内容などから企業を選びたい。
中途半端に足切りをするのであれば、もう少し職場の環境を整えてから障害者雇用積極企業として参加してほしい。
ちなみに、恐ろしいことに上記の発言を精神障害者積極採用企業と名乗る企業が行っていた。しかもわりと有名な大企業である。どんな人を雇っているのか、内情が逆に気になるところである。
あと、こうした企業の関係者は、もし自分が雇用される側と同じ立場――上記の発言を鵜吞みにすれば振り落とされる立場――に立たされたら、すんなり排除されても文句は全く言わないのだろうか。
オンライン編
今のご時世、ZoomやMicrosoft Teams等を用いて企業説明会を行う企業は少なくない。家でも就職活動を盛んに行える時代だ。1日に何件もの説明会を見て回る、ということをしている学生も多いことだろう。
オンライン説明会には、手話通訳、UDトーク、文字通訳も利用することができ、基本的に聴覚に難のある方にはとても優しい設計になっている。視覚に関しては……別途資料が配られていたりするのだろうか?聴覚情報から得られる情報は多いと聞くので、ここでは言及しない。
あくまで、僕個人が感じた不便な点を述べていきたいと思う。
BGM付き紹介動画(口頭の解説つき)
企業の人、特に人事担当者には是非知っておいてもらいたいのだが、同時処理が苦手な人や聴覚過敏の人間にとってはこれが大変苦痛なのである。
理由を列挙する。
BGMでナレーションに注意がいかない。BGMが邪魔でナレーションが頭に入ってこない。(駅構内で通話するシチュエーションと似た現象が起こる。健常者は注意を選択できるので通話の音声のみを聞き取ることができるが、聴覚過敏を抱えていると電車の通過音や人の往来で生じる音、遠くからでも聞こえてくるアナウンス等に紛れて音声がまったく聞こえなくなるのだ。)
上記のストレスで、余計にナレーションに注意がいかない。
ナレーションと人事担当の方の口頭の説明が被った際、どちらに注意を向ければいいかわからない。
口頭の解説に耳を傾けようとしても、ナレーションが邪魔で聞こえない。もっといえばBGMも被って余計に聞こえない。
そもそも口頭のみの説明に理解が追い付かない。音声の処理と内容の理解と、話される言葉の速度に頭が追い付かない。
結論:BGM×ナレーション×説明×会社の重要な情報=膨大なストレス
想像してほしい。人通りや車通りの多い雑踏で大声でデモ行進をしている集団がいる。なんなら荷台部分に広告を貼り付けたトラックが大音量の音楽を流しながらゆっくり近くを走っている。その環境の中であなたの電話が鳴った。どうやら仕事の指示らしい。さて、あなたは普段通りの会話の姿勢のまま、その内容を正確に聞き取れるだろうか?まさか、音の影響を受けにくいところに避難する、端末を普段以上に耳に近づける、などと言い出すなんてこと、しないよね?
少しでも自信がないなら、紹介動画の見せ方を再検討していただきたい。
僕から提案できる解決策としては、説明会用動画にはBGMを説明に被せて使わない(環境音は仕方ないが小さくしてくれると大変嬉しい)、動画の途中で口頭での説明を入れるなら動画を一旦止める、である。雇用する障害種の幅を広げたいとお考えの方は、是非試していただきたい。
Teamsの名前を変えられない
そもそもこれは一般的にオンライン上での説明会での課題と言えるのではないだろうか。
これはTeamsを個人のアカウントではなく、大学のアカウントで利用している人に起こりがちなことであると言えよう。ちなみに筆者も大学のアカウントを使っているため、名前の変更が管理者権限でできなくなっている。
では、僕がここで何故問題提起したか。それは、「空気が読めない奴」になりたくない、という恐怖からくるものである。空気が読めない奴、になってしまえば必然的に企業の印象は悪い。ただでさえ面接で空気が読めない奴だ、「空気が読めない奴」のデバフは極力減らしたい。
企業側には「学校のアカウントを使っているため名前の変更ができません」と説明は通した。が、不安は募るものである。もしかしたらTeamsを使わないというのも一種の手かもしれないが、おそらくここは企業の都合にもよるだろうと思うのでここには言及しない。
が、可能ならGoogleフォームで事後アンケートを取るなど、名前の変更ができず参加者にカウントされないおそれのある人に対して、救済策を取っていただきたい。
オフライン編
このご時世でも、現場に足を運ばせる企業、あるいは大手就職サイトの合同説明会が存在する。人事と直接触れ合い、今までの経歴と意欲を見せる場としては非常に有効な場であろう。あるいは、就職の体験談を直接聞き出すのにもいい機会だろう。
しかし、これもまた問題点が散見された。ちなみに説明会に実際に足を運んだ企業は1社だけだったうえ、オンライン参加も可能であったためここでは議論せず、合同説明会にのみ焦点を絞って話をさせていただきたい。
音やにおいなど感覚が密集しやすい
これは合同説明会だから我慢しろ、と言われるかもしれないが、筆者は不便だと思ったので書き記しておく。感覚過敏の人は特に自衛しよう。
合同説明会なので、当然大勢の人が参加する。企業も複数参加しており、人がひしめき合っている。そんな会場内で、同時に複数箇所で別々の企業説明が行われている状態である。
僕は聴覚過敏を抱えているので聴覚のことに限定して書くと、参加者の中で大きな声を上げる人はいないが、とにかく様々な方向から音が、声がひしめきあっている状態にいた。デジタル耳栓を付けてはいたものの、途中から息ができなくなり、興味の惹かれる企業はあったもののあえなく退散する羽目になった。
嗅覚は避けられないので今後の課題だが、聴覚、視覚等で過敏を抱えている人で、自衛する手段を持ち合わせている人は、必ず自衛しよう。
あと人の声はちゃんと聞こえるけど雑音は大幅に軽減されるような、夢のようなイヤーマフがあったらください。デジタル耳栓だと、耳栓が出している逆位相の音すら刺激になってしまうことが往々にしてあるんです……。
就職合同説明会の開催地が限定されすぎている
障害者雇用大手サイトの就職合同説明会。開催する企業によっては"フォーラム"と呼ばれている。
合同説明会のような雰囲気で、最初に企業からの自己紹介があってから、終了時刻まで企業のブースに足を運び履歴書を提出する、という形式になっている。
しかし困ったことに、開催地が東京、名古屋、大阪、福岡の4か所しかない。特に移動に難を抱えている障害や、疲労を感じやすい、あるいは体力の消耗で体調を悪化させやすい障害を抱えている場合は、遠距離移動が苦痛になることは想像に易いだろう。
健常な学生でも、東京に就職したいからとわざわざ東京でホテル暮らしをする人がいるくらいだ。障害を抱えている場合、移動、交通、慣れない環境等、様々な要因がストレス、あるいは障壁となる。配慮がもらえない、もらおうとしても時間が掛かり、結局障害を抱えていない学生よりも得られる情報が少ない、なんてことが起こる。
ちなみに、就職合同説明会だが、出席する企業は1月くらいだと新卒向けに大手企業が多いが、3月以降ともなると顔ぶれが揃ってくる有様だ。ついでにこの合同説明会、中途採用も兼ねているため、新卒学生はくれぐれも中途のみ募集している企業のブースに行かないよう注意されたい。
就職合同説明会に湧き出る「自称就労移行支援所職員」
これは言ってしまえばただの害悪の話である。障害者雇用専門合同説明会に出席すると、必ずと言っていいほど就労移行支援所を名乗る害悪が「アンケートを~」「就労移行支援所興味ありませんか~」などと言って言葉巧みにこちらに付け込んでくる。特に職がなくて困っているそこの人、絶対に気を付けよう。
ちなみに合同説明会のスタッフは館内放送で注意喚起してくれるが、それでもあの害悪たちはやってくる。会場で配られる袋や、服装を見て判断するとのことである。不安ならオフィスカジュアル系の着替えを持って自衛しよう。
もし捕まってしまったら、「興味ないです」「急いでいるんで」等、さっさと逃げ出すのが吉。時間に余裕があるようであれば、会場スタッフに通報する、会場まで支援所の職員(自称)を案内して差し上げるのがよいだろう。
ちなみに僕は、アンケート回答を断った僕のところから会場の建物のほうに向かっていったと思ったら、付近にいたリクルートスーツ姿の求職者のほうへわざわざUターンして話しかけていたところを目撃している。僕は優しいので、会場のスタッフに通報した。
さいごに
説明会に参加するにあたって、僕が少し後悔していることについて、話をして締めようと思う。
僕が就活を始めたのは、修士1年の3月末。このころ、大学内の就職相談センターにオンラインで相談をしながら、就活を進めていた。しかし、とにかく無力感と当時の精神状態が酷かった。取り敢えず就職合同説明会を行っているサイトを教えてもらったはいいものの、使い方がわからず合同説明会も行く気になれず、結局とある企業の障害者採用枠で受けようとしたら「障害者だろうが健常者だろうが差別はしません」となんともまあご都合主義の定型句を出されたうえに合同面接で落ちた。ここで心が折れて研究の意欲も完全に失せ、休学する道を選んだ。
休学してからは、趣味としている絵を描きつつ、別名義でも絵を描いていたので、絵で食い扶持を稼げないかと画策しつつ、支援センターに掛け合ってエージェントを紹介してもらって説明会に参加しつつ、ととても緩やかに就職活動を行っていた。
説明会に出席して思ったのが、
結局言っていることは普通の就職と変わらない
障害を抱えていて自分を肯定できない人間に対して、それでも自分を分析せよと言うの?
発達障害(自閉スペクトラム症)と精神障害(適応障害)の両方を抱えている人なんて雇ってくれやしない
理解ある企業なんてどこにも存在しない
当時かなり自己嫌悪に陥っていて、自分自身の興味関心なんてそっちのけ、理解あるところに雇ってもらおうなどと考えていた。それが完全な誤算だったことに、今頃気が付いた。
しておくべきこと編で知るための方法を述べるが、とにかく自分の興味関心意欲に関して知っておくこと、できないことだけでなくできることについても知っておくこと。これだけでずいぶんと視点が変わる。説明会の印象も変わる。僕自身も休学して最初の頃の説明会のメモは「なんだこの説明会は」と愚痴しか書かれていなかったが、何度も説明を聞いているうち、内容がどんどん企業そのものへと向かっていった。
就職活動をするにあたって、企業に興味を持つ、自分の興味のあることやできることを知っておく。これが第一。企業は案外、障害の中身よりも学生の意欲関心について見ている。基本的には会社に興味があるか、それを前面に押し出せるかで雇うかどうかを決める。だから、不安にならなくていい。
冒頭に書いた「精神障害だろうが発達障害だろうが、仕事量や内容を調節いたしません」とかのたまう企業は、明らかに配慮不足でつらい思いをする羽目になると考えられるのでやめたほうがいい。だが、言わない企業は、しっかりとこちらの意欲に応じて配慮をしてくれる(と思う)。なので、冒頭の発言をしない企業の中から、あなたの興味に応じた企業を探してもらいたい。
あなたの興味のある企業と、どうかご縁がありますように。
追記
「BGMつき企業説明動画」の件について健常者の友人に話したところ、その健常者視点ですら配慮が足りないとのことで大変憤っていた。説明動画にBGMを説明に被せる形でインサートする、さらにその上から口頭の説明を被せる、というやり口は健常者ですら嫌な人は嫌と思うらしい。(2022.06.06.)