トンニャン過去編#15 トム・クワイエット(原題「ふしぎなコーラ」)
※この物語は「阿修羅王」編・「アスタロト公爵」編の本編であり、さらに昔1970年代に描いたものを、2006年頃に記録のためにPCに打ち込んでデータ化したものです。また、特定の宗教とは何の関係もないフィクションです。
「コーラ?」
コーラはいない。
コーラとトムの部屋は隣同士で、二階だ。窓から出たとは思えない。
だが、ドアが開いた音もしなかった。
翌朝、トムは目をこすりながらキッチンに降りてきた。自分の部屋に戻りコーラが帰るのを待っていたが、眠ってしまったらしい。
「おはよう、トム」
「コーラ、夕べどこへ行ってたんだ?」
「夕べ?トムと話した後、すぐに寝たけど・・・」
「嘘だ。夕べ遅くにコーラの部屋に行ったら、窓が開いてて誰もいなかったぞ。海の事といい、コーラ、きみは何者なんだ?」
コーラは戸惑ったような悲しい顔をした。それからふいに家を飛び出した。
「コーラ!」
通りに出ると、コーラが家の前の空き地の近くでバイクにぶつかって倒れていた。トムが慌てて駆け寄る。
「急に、この子が飛び出して来たんだよ。俺のせいじゃないよ」
バイクに乗った青年は言い訳がましく言うと、倒れているコーラの顔を見た。
「え?また、こいつか。いつだったか、ぶつかった・・・」
「前にもぶつかったって?!」
青年は急いでエンジンをかけなおすと、止める間もなく逃げ去った。
同じショックを与えれば・・・。ドクター・グレゴリーの言葉が頭をよぎった。
コーラが突然起き上がった。そしてしゃがみこむように身をかがめ、耳を押さえた。
「はい、はい。そうです。申し訳ありません」
コーラは立ち上がった。
「トム、全部思い出したわ。
私は、私の上官の魔王様から地上の悪魔達に伝言を預かって来たの。
それが来た途端に記憶を失ってしまって」
魔王?悪魔?コーラ・デビル・・・デビル・・・・?
「海での事は気を失う瞬間、無意識に異次元に跳んだみたい。
夕べは、私の伝言が来ないから、しびれを切らした地上の悪魔達が私を呼び出し、意識のないまま、伝言を言わされたの」
「伝言って?」
「・・・近くサバトがある。生贄には人間が・・・。
これ以上は言えないわ。魔王様はお怒りなの。すぐに帰らないと」
「コーラ、きみは?」
「魔女よ。トム、あなたには感謝しているわ。それにトーニにも」
漫画で見るような魔法のほうきが飛んできて、コーラは飛び乗った。
「楽しかった。有難う。あなた達の事、大好きだった」
コーラはあっという間に雲のかなたに消えていった。
トムは黙ってそれを見送り、胸が締め付けられるような痛みに耐えていた。
数週間後、多数の行方不明者が出て新聞をにぎわした。
「生贄・・・」
トムは心に浮かんだその言葉を誰にも言わなかった。トーニにも。
不思議な事にトムとトーニ以外の人々の記憶から、コーラは消えてしまった。
そう、あの時のコーラと同じ、記憶喪失とでもいうのだろうか。
二〇〇七年平成十九年六月十日(日)(原文一九七六年八月)
ありがとうございましたm(__)m
オマケ
原作の「ふしぎなコーラ」は、もっと長くて、もっとたくさん事件が起こります。
トムの気持ちがどんどんコーラに傾くのを、それに気づきながらコーラをキライになれないトーニの姿も描かれます。
この2007年にデータ化した作品は、原作から大事なところだけ抜き出したつもりで、内実、最後は焦って慌てて終わりにしたように思えます。
記録としてデータ化したのですが、本質の「ふしぎなコーラ」の大事なところが急ぎすぎている感が否めません。
ちょっと残念な作品となってしまいました。
トンニャン過去編#15 トム・クワイエット(原題「ふしぎなコーラ」)
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トンニャン過去編#16へ続く
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