元祖 巴の龍(ともえのりゅう)#71
「これは燭陰(しょくいん)です。身の丈千里、人面蛇身にして、赤色なりと。私たちは、燭陰の体を登ってしまったのです」
桐紗は上を見ながら声を上げた。
「ほう、娘。わしがわかるのか。うぬ。おぬしは・・・そうか、さもありなん」
燭陰は桐紗を見て、意味ありげに言うと、今度は菊之介たちにぬーっと顔を伸ばした。
その顔は、髭を蓄えた人間のようだったが、首から下はまさに蛇である。
燭陰はふうと息を吐くと、菊之介たち三人の体からまた光が放たれた。
「やはり、龍の紋章を持つ三兄弟とは、おまえ達のことだったか。三つ巴の龍・・・「巴の龍」の噂は、ここにも届いておるぞ」
『巴の龍』と言われて、菊之介は龍車が同じことを言っていたことを思い出した。
「巴の龍とは何のこどだ」
菊之介が言うと、兵衛も口を開いた。
「この光は何だ。この龍の紋章は何だ。母が見た、三つ首の龍とは何なんだ」
燭陰は不思議そうな顔をして
「おまえたちは、自分の正体を知らんのか」
と言った。燭陰は額にしわを寄せて考えていたが、やがて天を仰ぐように空を向いた。
「今わしが話せば、すべては明らかになろう。だがそれは、おまえ達が自分の力で解き明かさねばならないものだ。
一つだけ教えておこう。三つ首の龍は、おまえ達の母の体に宿り、おまえ達三人の命となって、この世に生まれ出た。
おまえ達のその紋章が、何よりの証し。
しかもそれは、邪悪な龍である。
それを押さえ、自らの力とするのは、おまえ達の清い心だ。
もしおまえ達に悪の心芽ばえし時、巴の龍は、この世を滅ぼすこととならん。
今の清き心を忘れるでない。その清き心に免じて、今は何もすまい」
燭陰はそう言うと、薄切りの中へ消えていき、いつのまにかただの岩山になっていた。
菊之介も兄達も、燭陰の言うことが気になりながら、誰もそのことにふれなかった。話をしたとしても、答えが出るものではないことを、誰もが知っていたのだろう。
ただ朱欄(シュラン)に向かって先を急ぐのみだった。
南燕山を下ったところで、人の住まう山小屋を見つけた。
その小屋は人の気配がなく、菊之介たちは久々に屋根のある場所に泊まることとした。明日はもう。朱欄が目の前であった。
続く
ありがとうございましたm(__)m
※燭陰(ショクイン)も今までの妖怪も、江戸時代の妖怪画家・鳥山石燕の妖怪画集から、調べたものです。(ゲゲゲの鬼太郎のファンですから(´艸`*)※
「駒草ーコマクサー」
弟が最後に見たかもしれない光景を見たいんですよ
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